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あさの音と人の気配

昨夜はもうすぐ君のパパになる人がわたしの育った家にきて、隣で眠った。

別に届け物があったわけでもないから、わたしに会いに来たか、君に会いに来たか、どっちだろうね。どっちもかもしれない。

この家の朝は、私たちの朝より少し早いみたい。

たぶん、スマホのアラームが何度か鳴ったのを2回止めた。アラームをかけていた時間より30分くらい経ってしまった。斜光カーテンの隙間から漏れる光でほんのり明るくなったこの部屋は、君と君のパパとわたしが眠る安心の場所。誰も入ってこないけれど、人の気配を感じる朝の音がする。

この部屋は引き戸4枚が壁になっていて、その向こうにリビングがある。引き戸を挟んで、母がリビングとキッチンを往復するときのスリッパの音がよく聞こえる。誰かが話している声がテレビからするけれど、何を言っているかまではわからない。「パチン」「パチン」と、父が盆栽を手入れする鋏の音が一定のリズムで聞こえてくる。10分くらい前には、洗濯機がぐわんぐわんと回る音も聞いたかもしれない。

そんな朝の音を聞いて、わたしは大体起きていた。君も随分力強く、わたしの中を「ぐーっ」とゆっくり何度も動くからバッチリ起きているのかもしれない。普通に痛いからやめてほしいなと思う。

わたしは左隣で眠る人の手を取って、君の元気な動きを触らせて、痛いぞ苦しいぞと猛アピールをした。「うー」「うぉー」と騒いで、心配してもらった。これもあと1ヶ月もないかと思うとちょっと寂しい。

「そろそろ起きなくちゃ」。でも、微睡んだこの時間の気持ち良さにもう少し浸っていたい。を行ったり来たりして、君のパパになる人の顎の下に顔を埋めて収まった。代わりにわたしの右腕を触られる。(君のパパはわたしの腕を触るのが好きで鬱陶しいくらいよく触るから、きっと君のふにふにの腕もたくさん触ると思うよ)

お互い向き合って寝ていると、3人で寝ているよう。いつかこのお腹から出てきた君と、こんな風に川の字で眠るんだろうか。

スゥっとまた眠りにつきかけたとき、きらきらぼしの電子音が軽快になって、ハッとまた朝の音に引き戻される。ご飯が炊けたみたい。むくりと起きて、引き戸を開けた。

「おはよう」

遠くで鳴っていた朝の音は近くなり、今日が始まった。

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