探求2–機械学習〜人間も頭の中に「モデル」を作っている
シリーズ探求ということで、前回はこれから人間とは何かという世界観が変わるよ、という話をしました。
過去には古代ギリシャを含めて色々な人間観があったけど、これからの時代はAIと協働できる人間が望ましいとされるし、そういう世界観に変わっていくという話をしました。
今回は、具体的にAI、機械学習とはどんなことをしてるのか、そしてそれは僕らの心のあり方、考え方と一緒だよね、という話を精神科医目線でします。
一緒だよねと思った方が都合がいいんですよ、ここの重要なポイントは。
科学的に正しいということ以上に、こういう違いもあるよねという以上に、ある意味近づけていくことの重要性という話でもあるので、こう考えても嘘じゃないよね、という話なんです。
とても難しいんですけど。
心とは何かというのは、めちゃくちゃでかいデータというか、めちゃくちゃ複雑で難解なデータなんです。
僕らが理解するというのは、3次元のものを2次元に移し替えるような作業なので、完全には多分把握できないですね、人間の脳では、このスペックだと。
3次元のものを2次元に移し替えるような作業になってくるんですけど、本当に脳の動きや心を理解しようとしたら。
じゃあ、どう2次元にしていくのか、デザインをするのか、デッサンをするのか、という時に、割と嘘じゃない工夫というのはできるので、嘘じゃない工夫とは何かというのがAIというか機械学習モデルを応用するということになったりします。
◼︎機械学習
機械学習は教師のありなし、強化学習など色々あるんですけど、ちょっとここら辺は正確に分類せずにグチャっと混ぜて話をします。
脳が持っている働きや構造というのは、教師ありの勉強もしていれば、教師なしの勉強もしていることもあるし、半教師学習ということもしているし、強化学習みたいなこともしています。
AIやコンピュータがやっていること、エンジニアの人たちがやってることを僕らの脳みそでは同時に全部やってるので、心を理解するという観点から機械学習のモデルを使うのであれば分けて考える必要はないので、混ぜながら喋ります。
何をやってるかというと、まずデータです。
問いと答えをセットにしたデータを教師ありの場合は使ったりします、機械学習の場合は。例えばこの写真や画像データを見せて犬や猫を判別するというプログラムを作る時に、AIを作るとした時に、これは犬ですよとたくさん答えを教えてあげたり、これはネコですよとたくさん答えを教えてあげてモデルを作っていくということもあれば、ただただ大量にデータを見せて、それを教師ありで、ただただデータを見せていって、機械の中で何となく分類していくというやり方もありますけど、そういう形で、猫とはこういうものである、犬とはこういうものである、というモデルを作ったりします。
このモデルを元にし、これ対して、新しい情報を入れてあげる、と。
これは犬でした、これは猫でした、と入れてあげると。
これがわかりやすい機械学習のモデルです。強化学習モデルとは何かというと、犬だったら犬だと言ってあげて、正解してたら正解だよと言って教えてあげて、モデルをバージョンアップしていき、間違っていたら間違ってると言って、間違ったデータだということをまた再度モデルに波及するということですけど、人間の脳みそはこういうことをやってます。
という話です、簡単に言えば。
️◼︎人間もモデルを頭の中に作っている
人間もそうだよねということで、例えば僕らも○○とはこういうものだ、人間はこう生きるべきである、世界とはこういうものである、というモデルを頭の中に作っているんです。
難しいですけど、僕らは目から入ってくる情報、耳から入ってくる情報、色々な情報、過去の記憶を直接体験してるわけじゃなくて、脳みその中で全部一回グチャグチャっと混ぜて一つの世界を作って体験してるんです。
考えてみれば当たり前じゃないですか。
目から入ってくる電気信号と、耳から入ってくる電気信号は全く違う情報ですよね。
それを理性や前頭葉で扱いやすくするために、一つの舞台空間みたいなものを作ってるんです。
舞台空間を僕らはただ感じているだけなのに、さもその中にいるような錯覚があるんです。
ややこしいんですよ。
例えば夢の中は3次元空間というか、4次元空間というか、時間が流れたそのバーチャルな世界が出来上がってるじゃないですか。
でも夢を見ている時は、僕らは現実の世界を体験するような感覚にあるんですけど、実際は目からも耳からも情報は入ってないですよね。
それは何か作り上げられてるということなんですけど、まあいいか、この話はあまりしても。
モデルみたいなのを作ってますよと、いうことです。
精神科の場合は世界のモデルに対して歪みがあるんです。
例えば、私は嫌われてるんじゃないか、私はダメな人間なんだ、というモデルがあったりすると、誰かにちょっとそっけない態度をされると、やはり嫌われてたと思うんです。そうじゃなくて、普通の人や健康な人であれば、嫌われることがあっても全てじゃないなと思うわけで、何か情報が入っても、そっけなくされても、相手の機嫌が悪かったのかな、たまたまかなと思って嫌われてるという風には思わないわけです。
うつの人の場合は嫌われてると思うんですけど、この嫌われてるという情報がまたこっち側、データとして組み込まれて、その歪んだ情報を強固にしてしまうんです。
だからますます私は嫌われてる、私は出かけちゃいけないということで、この悪循環が生まれたりします。
だから外側で否定してあげなければいけないんです、この場合は。
私は嫌われてるけれども、多分これはうつだからそう思ってるんであって、本当は嫌われてないな、と思わなければいけないんですよ、ややこしいんですけど、メタ認知をかけて。
何か嫌われている、いやこれ私が変だから、今変だからそう思ってるわけであって、これは否定しなければいけない情報だという形で、一回そのデータを、直感的に感じたデータを理性によって否定してモデルに組み込み直さなければいけないです。
修正してあげなければいけないんです。
それがうつ病の治療だったりします。
認知の歪みを治す。
ただ、このモデルというものを変えるということはとてもストレスがかかるので、世界とはこういうものであるという認識を変えなければいけないのですけど、このモデル自体を変えるのは非常に疲れるので、モデルを変えたくないんですね、ベース人間というのは。だけど、それを無理やり変えてあげなければいけないので、自分で思い直す、誰かに言ってもらう、やっぱり違うよと言ってあげることで、ああ、やっぱり私そうだったんだ、と思うことで、強固にするというか、そういうものが必要となります。
いわゆる報酬と呼ばれるものです。
結局人間の場合は出力されたデータに対してどういう報酬を与えてあげるかということを、自分の価値観だったり目標設定という形で報酬と呼ばれるものを設定するんですけど。
もっと原始的な人間でいうと、感情というのが報酬になって動くんです。
ただ感情に支配されてると病気の場合は良くないんです。
健康な人であれば感情に身を任せていいんです。
モテたいから頑張ろう、あの子のことが好きだから頑張ろう、それらはとてもうまく機能するんですけど、病気の時は報酬というシステム(脳の報酬系とは違います)も破綻してるので、もう一回外部の人から訂正してもらったり、理性的にコントロールしてあげなければいけないんです。
本能ではなくて、理性や知識に基づいて報酬を変更してあげなければいけないんですけど、これが非常に難しいんです。
結論、どういうゴール設定を作ってあげたらいいのかというのは、自分の価値観や自分のやりたいことをやりなさいというのではダメなんです、おそらく。
ではなくて、美徳というか、そういうものに近づけていく、つまり礼儀正しい、人から好かれるような、ある意味努力というか忍耐というか、そういうものが求められるし、AIと協働できる人格というか、AIと協働で生きるということをゴール設定にしなければいけないということになります。
昔の価値観というか、現代的な価値観である自分らしさや資本主義的な価値観をゴール設定にしてしまうと、多分破綻する、破綻するというか、うまくAIと協働できなくて混乱をきたすんじゃないかなという風に思います。はい。
難しいね、この話は。
◼︎人間とは?
人間とは何かと言った時に、前回かな、もう話をしたんですけど、聖書の時代から精神分析、聖書を否定するような時代、そして現代においては脳科学や認知心理学、社会構成主義、自由意志というものをどんどん否定する流れになってきてるんです。
自分たちの今まで教わってきた常識だと、自分らしく振る舞うことが幸福なんだという風に教わってきてますけど、実際本当にそうかというと、僕らは自分らしくやりなさいだとか、幸福を感じにくいじゃないですか。
何かちょっと違ってきていて、僕らというのはもうちょっと違うものだということがわかってきているんです。
ちょっとややこしい。
探求シリーズはこんなもんだと思ってください。
ちょっと雑談っぽくしゃべっちゃいますけど。
この美徳というものを追求するのがいいんだろうと思いつつ、欧米的な美徳ではなくて、日本人が持ってる美徳というものを、文化的なもの、文化や歴史的背景から探っていくと、やはり仏教は強いなと思っていて。
仏教の中でも、特に仕方がないなどの諦観、諦観が持っている意味や美しさというのは、自分が追求していく上でもいいし、現代科学とも相矛盾しにくいし、そして多くの人達からも尊敬されたり好意的に受け止められる価値観なので、まあいいんじゃないかなという風に思っています。
️
◼︎治療のゴール
治療のゴールは何かというと、不安やトラウマがなくなる、別の全く別の世界に行けるようになるということではなくて、不安やトラウマに支配されなくなるということなんです。
仕方がないと思いながら頭を切り替えられる、パッと切り替えられるというのがいいんです。
うつの時、脳の前頭葉、理性的な前頭葉とやる気が出る報酬系の活動が落ちていて、不安を感じる扁桃体とトラウマが多い海馬などが活性化していることが多いんです。
治療が進むということは、海馬などが活性化した時にも、前頭葉などが活動してくれてるということなんです。
不安を感じてもすぐに前頭葉が、不安を感じちゃいけないよ、と不安を感じてる扁桃体の活動を抑えてくれるようなイメージ。
扁桃体によってやる気や報酬系が抑えられてるんだけれども、グッと高めてあげる、やる気を出すぞという、いわゆるポジティブシンキングができてる状態が、うつが良くなってる状態なので、このイメージは大事です。仕方がないなと思って切り替えて次へ行く。
感情や認知のバイアス、常識に支配されず、論理的にファクトベースでやっていくということになります。
感情やバイアス、常識に従って動くことも悪くないんですよ。
直感に従って生きることも悪くないんだけど、病気の時には良い結果にならないことが多いです。というのはなぜかというと、直感を支えているこのモデルというものが、ゴール設定や報酬がちょっと破綻してる、歪んでいる時があるので、自分が持っている直感や本能に従ってしまうと悪循環を生むことがあるので、こっち側(感情、バイアス、常識)を否定してあげて、抑えて、論理的にファクトベースで動いてあげた方がいいことが多いです。
ファクトベースで考えるというのは、ダニエル・カーネマンでしたっけ、出てこないですけど、ダニエル・カーネマンであってますね。
認知心理学と経済学の人ですね。ダニエル・カーネマンが言ってる通り、ファクトベースや論理的な思考はスピードが遅いんです、システム2と呼ばれて。
ただサバイバル生活の時には、感情や常識、バイアスで動く方が、システム1と呼ばれて素早く動けていいんだけれども、現代社会ではシステム2で生きた方がいいよということも多いし、病気の時は特にシステム2を意識するのは大事だし、そしてこれからのAI時代はシステム2を支えるデバイスというのがどんどん増えていくので、基本的には論理的、ファクトベースで動く方がいいかなと思います。
社会全体で色々なデータがどんどん増えていく、データが増えていくのでモデルも変更されるし、どんどんデータとモデルの流れが加速化するというのがAI時代なので、一つのモデルというか、世界観にとらわれないというのが大事になってくるのかなという風に思います。
この治療イメージを持ってAIをうまく利用してあげるといいのかなという風に思っています。
何かややこしいね。
ややこしいですけど。
ちょっと探求というか、益田の仮説というテーマをちょっとお話ししてみました。
皆さん、今回難しい話ですけど、どう思ったか、皆さんのご意見を聞かせてください。
️◼︎本日の宿題
宿題は、この機械学習と人間の相違点や美徳、こういう美徳を目指すことの意味や価値を考えてもらうと面白いかなと思います。
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