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うらかたり 第28話

裏方が語る舞台の裏側の物語『うらかたり』と題して、どらま館制作部技術班が更新するnote記事企画。
今回は第28話を公開いたします。


今回、学生会館インフォメーションセンターを2/9付で退任された矢作輝(ヤハギアキラ)さんに、退任の前日にお時間を頂きお話を伺いました。施設利用関連の話題以外をお話しする機会があまりないインフォメーションセンターの方ですが、その場所に立ち続けたからこその学生への眼差しや思いをお聞きすることが出来ました。本記事では、そのインタビューの内容を抜粋して掲載します。

(インタビュー中の様子。インフォメーションセンター奥にお邪魔させていただきました。)

インフォメーションセンター矢作さんから見えた学生会館

どらま館:
よろしくお願いします。

矢作さん:
お願いします。

どらま館:
まず、矢作さんがされているお仕事の内容を教えていただけますか。

矢作さん:
はい。私は大学から委託を受けた会社に所属しておりまして、 このインフォメーションセンターのマネージャーという職をさせていただいております。職務内容としては、学生会館の施設の管理、鍵の貸し出し、それから施設利用の予約を受け付けたりだとか、そういった作業が主な業務になっていますね。

どらま館:
ありがとうございます。矢作さんは何年ぐらいこちらにいらっしゃるんでしょうか。

矢作さん:
私がこちらに来たのは2015年の2月からです。1年間スタッフとして色々サポートしてまして、マネージャー職になったのは2016年の4月からです。ですから、6、7年ですね。

どらま館:
長い間こちらで働かれているということで、学生と話される機会とか、普段の業務の中であったりされますか。

矢作さん:
そうですね。ここはカウンター越しに受付したり鍵を貸し出ししたり、ルールに複雑な部分もありますのでそういうところをご説明したりとか、あるいはご要望とかご相談を受けたりします。朝の8時から夜の10時までということで、午前の朝の8時から3時までが早番と、3時半から夜の10時半までが遅番という形で交代制になってるんですが、女性6名ずつ在籍していまして、毎日4名程度が皆さんの受付を担当していると。そのまとめ役という形で私がおりますので、その間のいろんなことを私の方で相談に乗ったりしますね。

どらま館:
そうなんですね。2015年からこちらで働かれていて、長い間、施設や学生たちのことも見てこられたのかなと思うんですけれど、最近ちょっと変わってきたなと感じられる部分はあるのでしょうか。

矢作さん:
そうですね。私自身、学生時代、関西の大学で、 サークル活動に4年間没頭した人間です。実は現役時代からこの早稲田大学にも友人も何人かおりましたし、そういう意味で縁があったのかなと。どちらかというと、授業のキャンパスに行くよりも、友達と部室に入り浸っているという4年間を過ごしたものですから、非常に懐かしさも感じました。 何十年前かの自分たちが歩いてるなあという風に、自分の思いを投影しながら皆さんを見させていただいてました。ただもちろん世の中も価値観も変わっているからあの頃の我々と全く同じには見えないけれども、いつの時代もサークル活動に熱中してる学生さんは、羨ましさもあるし、輝いてるなという感じで見てきました。ただ、皆さんご承知のようにコロナという予期せぬ時代になって、この3年間に関しては、見ていて、本当に、皆さんのお気持ちを考えると、同情を禁じ得なかったですね。

どらま館:
ありがとうございます。そうですね、最近はある程度再開できるようになってきましたが、最初のうちはなかなか活動ができなかったりということもあって。

矢作さん:
皆さん自身が1番苦労されてる時代。私から振り返っても、長い人生の中でいつが1番楽しかったかというと、やっぱり学生時代の4年間なんですよね。この4年間が思い通りに活動できない時代に直面したということには、本当に同情しますね。

どらま館:
ありがとうございます。

演劇サークルの見え方

どらま館:
私たち「どらま館制作部」は、主に演劇サークルの学生を対象とした企画を制作しているのですが、矢作さんから見て、演劇サークルの学生たちはどういう風に見えているんでしょうか。

矢作さん:
私は音楽をずっとやっていたのですが、大学に入る時に演劇にも多少興味があって、やってみようかなという気持ちも若干あったんです。早稲田の演劇というのは伝統もあるし、サークルの数も非常に多いですし、活動も活発にやられてるということで、大学の中で演劇を志す人の熱いものはずっと感じてましたね。ただ正直なところ、もちろん熱心にやってる方もたくさんいるんだけども、昔に比べて若干若い人たちが演劇離れというか。というのは、我々も稽古場会議をやるんだけど、インカレというシステムで幅広く、名義としては20ぐらいサークルが活動していますけど、掛け持ちとかという形で、維持するのが大変なのかな、というのは肌で感じてますね。コロナがあって勧誘なんかも思い通りに行かなかったりで、さらに公演に制約があったりして。あんな狭い小屋でね、演劇をするというのもなかなか一時期難しかったし、衝立をしなきゃいけないとか無茶な条件もあったりもしたと思うんですが、そういう意味では 受難の時代かなという気がしていますね。

どらま館:
そうですね、なかなか維持が……新歓がしばらく対面でできなかったというのがあって。どうしても集まってくる人は、みんな興味をすでに持っている人が自分で調べて辿り着くという感じで、確かに分母が狭まってる感じはありますね。

矢作さん:
我々の頃もそうなんだけども、大学に入ってから全く畑違いのことに挑戦するというのは結構あって、それを集めるのが新歓の醍醐味というか。けれどもここ数年新歓の活動が制限されて、公認サークルが部員確保がうまくいかなくってやむなく活動を停止することもあるので、そういう面でも非常に、残念なことだなという風に感じてますね。

地下テラス、学生の自治

どらま館:
演劇の公演を行うための美術などを制作するのに学生会館の地下にあるテラスを使用するのですが、なかなかそれもすごく混み合ったりだとか。

矢作さん:
そうなんですよね。

どらま館:
テラスの予約って……

矢作さん:
これはねえ、私が言う立場ではありませんが、演劇含めていろんなサークルの活動を支援するというのは大学の役割のひとつで、学生会館やいろんな施設を提供している。当然その演劇サークルを支援するためにはいろんな舞台美術をつくるためのタタキ場を確保しなきゃいけない。けれども今この規模の大学で、これだけのサークルがあって、あの狭い場所をしかも8分割してというのは、まあ、正直言って、大変なんです。ところが、いろんな条件でそういう支援ができるだけの場所とか環境を確保しきれていない。私も何人か生活課の職員の方とも面談したりしていていると、これでいいとは全然思ってないわけですよ。場所確保のために早朝から並ばなきゃいけない。他に良い方法ないですかって相談も受けるんだけど、じゃあ例えば抽選にしたら、公演のために1ヶ月前からやるとして、そのうち3週間は取れた、でも1番大事な1週間取れなかったら、きついですよね。そうすると、自分たちの努力で取るには誰よりも早く先着順で取るしかない。今のところこの方法しかないわけで。

どらま館:
そうですね……

矢作さん:
毎週月曜日の朝、ここに私が出勤するとね、今週も50人ぐらい、朝から並んでるわけですよ。それを見ると本当、辛くてね。大変だなというか。それはある意味、学生時代の情熱というか、後から思えば良い思い出になるかもしれないけれども、でも、それは必要なことと必要でないこともあるので、なるべくね、そういうところはなんとかしてもらえないかなというのが実感ですね。

どらま館:
そうですね、私もテラスの作業中やっぱり大変な部分もあるというか。あとはいろんな団体の方がいらっしゃるので、テラスのマナーであったりとか、危険だなと思うこともあったりして、そういう部分も難しいな、と思います。

矢作さん:
そうですね。もちろんルールというのがあるので、あちこちに注意事項とかルールを貼っていますよね。時々マナーの悪いサークルがいたりすると、我々に相談が来ます。でも大学というところは、自主性を育てるところだと思っているんですよ。学生会館というのは大学が準備して、あなたたちが自由に使っていいですよと。ただその中でルールを守っていくのはあなたたち自身のその自覚ですよということなんですよ。ここが小学校とか幼稚園であれば、〇〇ちゃんダメですよ、と先生が注意しています。ただここはそういう場所ではないので、例えばマナーを守ってないサークルがいたら〇〇サークルダメですよ、とか、それは小学校までです、はっきり言って。それ以降はやっぱり皆さんの自主性で、あまり大学とか我々職員がルールを守ってくださいという風に、お膳立てをする場所ではないと思ってるんです。もちろん最低限注意はしますけど、注意して治る子は最初からやらないですよ。もう大学生だったら分別のある大人なんだから、我々がそこまで関与するものでもないしできない、という立場でいるので、確かにテラスなんかでルールを守らないサークルもありますけども、それを直すのはもう我々の力でなくて、あなたたちの声なんですよ。そういうサークルがいたら、他のサークルが集まって、何やってんだよ、私たちの場所じゃないかと言う。それが理想の形かなと。そういうサークルの中の横の繋がりに私は期待もしたいし、そういう風にしてほしいなと思うんだけども。

どらま館:
そうですね……

矢作さん:
ごめん、ちょっと話がちょっと逸れたかもわかんないけど。

学館の"管理人"として

どらま館:
そうですよね、やっぱりその学生と学生との距離感と言いますか、どこまで接するけどここからは線引きをするっていうところは、すごく大事だし、私たちも考えないといけないなというのを、すごく感じました。

矢作さん:
そうですね。皆さんから見てインフォメーションというのは、学生会館の目立つとこにいて、鍵を渡したり、あるいは予約を取ったり、ここがコントロールしてね、1番偉いんじゃないかなと思っているんだけど、そうじゃない。我々は管理人なんですよ。で、大家さんは大学なんですよ。

どらま館:
なるほど。

矢作さん:
我々はあくまでも、ここの施設や鍵をお預かりして、みなさんに使えるようにする立場なので、我々の持ち物では一切ないわけですよ。 例えば202は、皆さんが使うための部屋で、我々はあくまでもその部屋の管理をしている、マンションの管理人みたいなものですよ。大家さんは大学、生活課ですので、 そういう立場でやっているんだけど、我々の方でも予約を取ったりする時にルールがあるから無意識のうちに上から目線になってしまう部分があって、その辺は普段からも注意はしているし、私自身も反省しなきゃいけないんだけども、そういうところは皆さんにはちょっと申し訳ないかなと思うことはしょっちゅうあるんですけどね。

あらゆる学生と毎日話すということ

どらま館:
インフォーメーションに結構よく来る学生とかがいると思いますが、顔や名前は覚えるんでしょうか?

矢作さん:
ああ、覚えますね。特に女性スタッフさんはそういう感じで、もっともっと親近感を持っていると思います。ただ、ここは多くの学生さんが利用しますから、 あまり親しい学生さんとそうでない学生さんというのを作ってしまうと、悪意がなくても不公平感が出てしまうことがあるので、それは注意しています。なるべく等間隔で、毎日来る人もたまに来る人も、同じ学生さんで利用者なので。例えば顔見知りになればちょっと一言二言、今日はどうしたの、とか、今度コンサートなの、とかいう話はありますけど、それが度が過ぎちゃうと、例えば、横に初めて来た学生さんがいて、なんかあの人とは仲いいのかなという風に思われることもあるし、そこはなるべく親しくならないようにということは、私自身は注意しているつもりなんですが、ただ毎日顔を合わせていると、やっぱり人情ですから、毎日来る子とか名前を覚える子もいる。スタッフも、愛想のいい人もいれば、無口なおじさんもいるので。それは人間ですから。そういう強弱とかを感じることはありますけども、それはなるべく出さないように、というのは心がけてますね。

どらま館:
ありがとうございます。

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インタビュー中は、多くの方の関心や協力によって我々学生の活動が支えられていること、そして、我々自身は普段その内のほんの一部分にしか気が付いていないことを、改めて痛感した時間でした。

記事を通して、我々の活動環境のそういった幸福さを、読んだ方にも感じていただければと切に願います。

インタビュー:どらま館制作部 大澤・中西
記事執筆:どらま館制作部 中西

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