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感情に機能する建築

建築設計の仕事から離れて久しくなるが、今も時々その世界の片隅で仕事を手伝わせてもらっている。

私が大学卒業後に建築設計の世界に入ったときは、図面が手描きからパソコン(CAD)に変わる過度期で、手を動かして体感するスケール感をパソコンの中に持ち込めないもどかしさを抱きながら必死にCADを体得したことを覚えている。

あれから四半世紀が過ぎ、この世界ではCADがBIMに変わりつつある。と言っても建築設計の世界は、ゼネコンのような大きな組織から個人事務所まで組織スケールが様々で、尚且つ日本には公務員が作ったフリーCADがまだまだ重宝されている。だから大きなコストのかかるBIMの導入はなかなか浸透して行けていない。

しかし、BIM以外にも設計に便利なパソコンツールはこの数年でどんどん進化し、学生がこれらを習得して社会に出てきた昨今、建築は、設計手法は大きく変わっていく予感がしている。中年の私は180度考え方を変えなくてはいけない気さえしている。

占い的には風の時代が始まっているという。200年に一度の変化なのだそうで、ハードな物質を象徴する地の時代から、目に見えない、抽象的な世界へ価値を見出す方向へシフトしていくのだと言われている。

そんな中で、とうとうこんな建築家が出てきたかと感心している。

この展覧会の情報を知るまで私はヘザウィックという建築家の名前は知らなかったが、彼らの建築はいくつか見たことがあった。この展覧会では、今までなら建築では非現実的な有機的な造形の数々に魅了され行ってみたのだ。最初は建築学生が考えそうな創造をリアルに実現させちゃってすごいな程度にしか感じなかったのだが、どんどん奥に入っていくと、これだけ現実のプロジェクトに落とし込む彼らの才覚が気になって仕方がない。

しかし、最後にヘザウィックのスピーチを見て、彼らのパワーの源に納得した。これまでの建築にはなかった人の感情に機能する建築こそ、これからの健やかな人間社会に必要だと。彼のスピーチの言葉は私にそう飛び込んできた。正に風の時代の建築を考える人なんだと思う。

これまでも建築は人の動線や環境エネルギーなど、目に見えない存在を空間に落とし込んできた。感情への機能性なんぞ、測れる目盛りがあるだろうか。私はものづくりの中に新しいフィルターを見つけて、ちょっと嬉しくなった。

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