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手工芸取材記

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日本国内の様々な手工芸の職人さんたちを訪ねた時の記録をまとめたものです。 不定期で公開します。
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#蒔絵

蒔絵訪問記#2:「漆」とは、「蒔絵」とは

漆が海外に行くとjapan lacquerと呼ばれていると聞いたことがあります。そんな日本の代名詞が付く漆なのに、国産漆はとても希少だとも聞いたことがあります。気になって漆工芸の背景や実情を少し調べてみました。 漆は東アジアにしか生息しない植物で、古来日本に限らずアジア諸国で使われてきた塗料です。土器の接着や装飾、木器の塗料として使われてきました。 漆について(Wikipedia) また、「蒔絵」の起源は諸説ありますが、正倉院宝物の「金銀鈿荘唐大刀」が蒔絵の起源とも言わ

蒔絵訪問記#3:仏壇職人の作る蒔絵

蒔絵職人の工房は石川県羽咋市という能登半島の付け根にあたる位置にあります。砂浜をドライブできることで有名な千里浜海岸と天然記念物「入らずの森」を抱え日本海に面して古来より鎮座する気多大社が有名です。 目の前は海、振り返ると山があるという自然の深い懐に包まれるような環境で、普段は山も谷も建造物に囲まれた生活を送る私には全くの別世界。 取材に伺った日は台風の影響で海は少し荒れ気味でしたが、自然の摂理の中に在ることの安心感があります。 職人さんは仏壇蒔絵の仕事を30年続けてこ

蒔絵訪問記#4:蒔絵の工程

蒔絵の仕事で最も重要であり辛抱も必要なのは、漆を塗り重ねるたびに必要である室(ムロ)での乾燥作業です。一度の乾燥に要する時間は半日〜3日ほど。漆は空気中の水蒸気が持つ酸素と結合して硬い塗膜を作っていきます。そのため、乾燥とは言うものの、ある程度の湿度を維持する必要があり湿度管理も重要な職人技術です。湿度計もあるけれど、ほとんどは毎日の気候変動と自身の体感で室の湿度を調整すると言います。 この取材では蝶を描く工程を説明してくださいました。蝶は螺鈿や金粉も用い蒔絵技術がふんだん

蒔絵訪問記#5:蒔絵の小さな宝庫

この取材のご縁にと、いただいた小さなアマガエル。小さな石の舞台で鎮座する姿が絶妙な余韻を醸し出していて、見るたびに印象が違うのです。 ある時はグリーンの艶やかな漆の輝きの中にさり気なく施された金粉を発見してグッときたり、ある時は石の余白に侘び寂びを感じ見入ってしまう。 小さな石ころの中に豆粒大のカエル1匹を立体的に描くことができるすごい技術もさることながら、日本の豊かな自然の魅力や、信仰を通して古くから培われてきた日本の思想文化も。私にとっては、たくさん感じられることが詰

蒔絵訪問記#1:先入観を覆された日

河原の小石に描かれた蒔絵の蜻蛉。 蒔絵と聞いて、すぐ思い浮かぶのは博物館にあるような江戸時代の殿様に献上するような重箱。螺鈿や金粉をふんだんに使い、漆黒に浮き上がる煌びやかかつ派手な工芸。蒔絵と言うとこのような印象しかありませんでした。 この蒔絵を初めて拝見した時は従来の蒔絵の“豪華絢爛”というイメージとはまるで違いました。虫のリアリティがすごい。けれど、虫がいささか苦手になった私には微塵の不快感もなく、素朴な丸石からかとても長閑な自然を感じさせてくれ、虫を捕まえて遊んでい