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【後編】元JAXA理事が選んだ、美しいモザイクを実現するための新たな挑戦

WARPSPACEメンバーインタビュー企画第5弾となる今回は、JAXAの理事を退任後、現在ワープスペース参与として活躍されている浜崎敬さんの登場です。
NASDA時代から日本の宇宙開発の最前線に立ち続けてきた浜崎さんが、なぜ今、ワープスペースに参加のか。会社だけでなく、これからの宇宙業界に何を考えているのか、弊社CEOの常間地を交えた対談形式でお届けします。

前編をまだご覧になっていない方はぜひ、こちらから!

今回はその後編をお届けします!


5.社会課題などの大規模な問いや巨大なゴールに対して、細分化されたモザイクたちはどう向かっていけばいいのでしょうか?

【浜崎】
難しい問題だとは思いながら率直に言うと、「どういう理想があるべきか」などは全員が考えなければならないと思います。しかしこれは誰かがコントロールするものでも、できるものでもないので、民主主義の中の対話と参加によって社会全体で方向を決めてチャレンジして修正していく事になると思います。なかなか民間企業が全て仕切るのは難しいですが、政府への提言や技術提供など参加の仕方はたくさんあるのではないでしょうか。

自分たちで取り組むことも大事だけれども、課題に関連する周囲の組織と共に、より大きなコミュニティで議論すれば、新たな方向が見えてくると考えています。

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【浜崎】
例えばオゾン層の保護は大気中の微量成分がいくつもある中でなぜオゾンに規制がかかったのかというと、まずオゾン層破壊の科学的メカニズムが早い段階で明らかになったこと、オゾン層の保護に必要な対策やその効果が科学的に予測できるようになったこと、その技術が及ぼす影響が社会の課題や関心にタイミングよく合致したからなんですよね。

サーフィンのように、波は必ず来るが、いい波を確実に見つけてちゃんと乗れるかどうかは経験や準備にかかっています。プロジェクトを起こすのも波乗りに似た要素があって、同じことを言ってもタイミングが違うと相手にされなかったり、逆に難しい問題でもすんなり事が動いたりします。やってみないと分からない部分もありますが、多様な仲間を作って資源とアイデアを出し合い、試行錯誤しながらビッグウェーブを待つのがいいのではないでしょうか。

とは言っても、「なんでもやります」「なんでも提案します」では具体性がなくお金も付かないからこそ、パイオニアとしての意志や意図をしっかり持って、具体的な提案の意思表示をすること、うまく行かない場合の対策もきちんと立てて対応すること。自分は間違っているかもしれないが、試行錯誤してみないと次への対策も知恵も浮かばないと認識することが大事だと思います。

WARPSPACEの人材はそれを有した人が多いと思いますが、発案者としてのチャレンジマインドは常に養ってほしいですね。

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【常間地】
そうですね。私企業というものは、現実に(あるいは将来)存在するワンイシューに対するワンソリューションを提供することに立脚して作られているので、社会のニーズと企業のソリューションはマッチするはずです。ではなぜ社会課題と宇宙産業が乖離しているように見えるかというと、「時間軸の違い」があるからだと思います。宇宙産業で実ったものが数十年後に地上でより活用できるようになると新たな課題やニーズが生じ、そのときに宇宙産業を含む様々な産業がチャレンジしていく。WARPSPACEの事業の本質は数十年後、数百年後のニーズに対するソリューションだと考えています。

宇宙産業にはお金がかかりますが、今までは国として重要だと考える政策に予算がついてきました。それも勿論重要だけれども、今ではスタートアップでできることが増えたので、様々なニーズを踏まえたソリューションを幅広く考えることができるようになりました。僕はこれを宇宙産業の民主化だと思っています。そして今後はより、宇宙開発とニーズの時間軸の差が縮まりつつあって、タイミングが揃うときがくるのではないかと思っています。

【浜崎】
私としては同じことを技術面で強く感じていて、近年は宇宙機器を作る技術が一般化してきているんですよね。宇宙機器は耐放射線などの特殊技術が必要で、かつては部品などが民生品に対して2~3世代遅れることがどうしても起きてしまっていました。ところが今は民間企業の技術レベルがどんどん上がってきていて、民生品と宇宙用品の差は、未だに壁はあるものの、非常に縮まってきていると思います。

宇宙開発で大事な要素のひとつが同じ機器を何個も長時間使って算出される故障率なのですが、かつてに比べて民生品の故障率も格段に下がってきています。国の宇宙開発で使うには信頼性検証のための時間も費用もかかる。その点でベンチャーは、故障の確率はあっても小さなプロジェクトで開発部品をいきなり使えることもあるんですよね。従来の宇宙産業とベンチャーでスピードや要求が異なることを活用し、うまく両立できれば、社会全体としてもより早く目的を達成できると思います。


それぞれがそれぞれのやり方で目標を追求できる時代だからこそ、ベンチャーの生きる道は、決して従来の大企業と張り合うことやつぶすことではないはずです。

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【常間地】
僕たちスタートアップとしても、投資主体である大企業がいなくなると困ってしまいますし、共存すべきだと思います。そのうえで浜崎さんの言う「社会全体」というものがとても重要です。民主的な社会が強いのは、皆がてんでばらばらに好き勝手やった結果として全体最適の結果が得られる可能性が最も高いからだと僕は思っています。各主体は自分たちが作りたいものを一生懸命作り、その集合体が社会になる。かつてあったような民間での技術革新が、宇宙の分野でも起こるのではないでしょうか。

【インタビュアー】
インタビュアーですが今感動しています.....

6.これからWARPSPACEが大きくなるにあたって、どんな人がいたらより良いチームになると思うか?

【浜崎】
今の事業を実施する上で、不可欠な人材を早急に確保するとともに、モザイク実現のために、目利きのできる、多様なスキルを持つ人に関わってほしいです。
プロジェクトでもフェーズごとに必要な人材は違うし、各フェーズに合う役割の人が効果を出せるようにしなければいけないと思います。組織の中で能力の高い人にどんどん仕事が集まって、結果的にその人の集中の妨げになることは起こりがちで、小さな会社が成長していくときに脱しなければならない課題でもあります。数百人規模の会社と違って小規模のベンチャーではベストな配置をすることも難しいので、状況の変化を敏感に察知して対応する能力が重要だと思いますね。そのために一般論としてでもありますが、適応力・幅・ポテンシャルを常に高めておくことが重要だと考えています。

また常に大事なのは将来に大きな夢を持つと同時に、危機感を持つことではないでしょうか。今あえて日本社会の問題を言うなら、将来に対する夢も足りない、危機感も足りないことだと感じています。次の大波に乗るぞという夢と、逃したら大変だという危機感を同時に持って、万全の備えをしておく。WARPSPACEは、最初の波が見えたからこそスタートできた、次の大波も必ず来るから、それを逃さないよう構えていなくてはいけないと思います。

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【常間地】
浜崎さんからは広く概念的な指摘をいただいたので、敢えて僕からは具体的に言うと、短期的に我々が足りない部分を充足させる人材に入ってきてほしい。その中で、いかにタレントのある人に入ってもらえるかがかなり重要だと思っています。スキルだけでなく、その人の実績・考え方・パーソナリティを含めてタレントです。WARPSPACEは自前で衛星のすべてを作る企業ではなく、サプライヤーとの関係の中で仕事をしているので、いかにパートナーとコミュニケーションしていくかがとても重要です。なので色々な主体がある中で1つのプロジェクトをしっかりと回せる人材がほしいですね。

高望みの理想を言うと、プロジェクトマネージング経験者が複数人いるとありがたいです。我々の事業としては衛星製造の分野もだし、通信領域として、地上システムや通信インフラの分野でも、ビジネスとディベロップメント両方の視点を持つ人材が外から参画してくると非常にありがたいと思っています。勿論我々自身が作り上げていくものの、衛星・地上・通信の各ファンクションにマネジメントできる人が欲しいので、すぐにフォーカスしてアプローチしたいと思っています。
さらに大学発ベンチャーとして、大学衛星プロジェクトにアサインできる仕組みも設けるつもりなので、興味があれば連絡してほしいとも思っています。
これからの宇宙産業は宇宙機を作るだけのビジネスではないので、ビジネスを生む人や、グローバルな観点、デザインの観点を持つ人も大事。僕らのWARP-01も、衛星の機能としては「赤い衛星」である必要は全くないんです。けれども、赤かったからこそ耳目を集め、JAXAの審査官の方にも「今まで見た中で一番かっこいい衛星だ」と言っていただいたりとか、人を引き付ける力を持たせることができました。
今の宇宙開発には、より人を惹きつける必要があると思っているので、広義としてデザインシンキングを持った人にぜひ関わっていただきたいなとも思います。


7.最後に、浜崎さんが最も大事だと思う『compass of behavior』を教えてください

【浜崎】
どれも大事な要素ですが、敢えて選ぶなら『03. Decide with fact』ですね。
WARPSPACEの若手は現場での経験、特に失敗経験はどうしても不足してしまうからか、ある意味では技術の本当の厳しさを理解していない、極論すると「技術をなめている」と感じることがありました。教科書には書いていないことが実際の開発には山ほどあり、本当に慎重に突き詰めないと分からない世界だと思っているし、いまだに理論が確立されてない分野もある世界だからこそ、現場の経験知がものを言うことがあります。これからハードウェアを作っていく中でさらに磨き上げ、実践していく項目になるのではないでしょうか。

もう一つ大事なポイントに『08.Adventure』も挙げさせてもらいたいです。
ベンチャービジネスの生きるところはチャレンジ。実現したらどんな世界が広がるか想像して、さらにの夢を膨らませて改善しながら、夢がさらに2倍になるかもしれないことに労を惜しまず賭け続ける。仕事に限らず、日常生活でも「ビジョンにつながるゴールは意識しながら、冒険心を忘れずに取り組み続けることが大事ですよ」とも伝えておきたいと思います。

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