見出し画像

暗い部屋

暑い外とエアコンの効いた部屋を行き来していると、どんどん外界から断絶されていくように思う。朝には熱中症警戒アラートが発表されたとの通知がスマホに届いていて、部屋を出れば生きとし生けるもののすべてを拒むような熱風が吹いている。ここにずっといたら死ぬんだなと直感する、危険な暑さだ。早く部屋に入りたいと思いながらたばこを吸う。

先月、退職した。
熱中症警戒アラートが出ているのに職場に出勤しなければならない時、暗にお前なんて死んでもいい、と言われているように感じてとても落ち込む。仕事に悩んで、これ以上続けられないと思ったタイミングで辞めて良かった。
こんな酷暑の中、ただでさえ同僚からの説明が足りなくていつも難航している、やりたい職種とはかけ離れている上に、日勤に紛れて不定期に夜勤がある業務を、やむを得ず爆裂な残業してプライベートと睡眠時間を削りながら、とてつもない安月給で、強大ななにかに暗に死んでもいいと囁かれていると感じながら働き続けているなんて、無理すぎる。本当に辞めて良かった。

仕事を辞めてからは、概ね彼氏が作り上げて、そして少し私が手をくわえた、おもちゃ箱のようなこの部屋でずっと過ごしている。私が管理して快適な室温を保った箱庭のような部屋は、朝も昼も真夜中もあって、苦痛はとても少ない。無職の私はいつ起きて眠ってもいい。ずっとテレビでYoutubeの動画や配信サービスでアニメを観て、飽きたらゲームをして、気が向いたら音楽を聴いたり本を読んだりしながら、考えたいことを考える。それはとりわけ、私の悲鳴が聞こえるような、悪夢を見続けていた日々の感情についてだ。私本来の性質とはきっと違うけどいつも背中にべったりとはりついていて、あの頃は私を覆い尽くして、今は時折ほの暗く翳らせる、かなしい悪霊みたいな。

日の光は私と愛しのねこちゃんのためだけに降り注ぐ。窓から差す光はそれほど多くない。白いカーテンに乱反射して、この光の差さないベッドの光量を上げる。外はあまりにも明るいらしい。そしてきっととても暑い。他人事のように、私はねこちゃんと外を眺める。熱気と対峙するととても苦痛だ。たばこを吸うくらいの短い間ならまだ我慢できるけど、元から汗かきの私はごく近所のコンビニに買い物に行くだけでも汗だくになって、心底嫌になる。この夏はできるだけ外に出ないでおこうと決めている。

Youtubeと、アニメと、ゲームと、彼氏、またはねこちゃんとの会話と、私の感情と、この部屋に差す光で、私の身体が構成されている。とてつもなく狭まった環境で、とてつもなく大きなことを考えようとしている。

赤が目に焼きついても構わずに見つめ続けた夕焼け

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?