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インゴ・スワン「リアル・ストーリー」(46)

第 21 章 ASPR における最初の異変  1972 年 1 月


最初のサイキック(心霊)研究組織が 1882 年に設立されて以来、超心理学の分野は実験と報告書の発表だけのかなり平穏な分野であるように見られてきた。 実験から正式な報告書に至る手順はよく知られており、受け入れられている。そして最終的な報告書は超心理学分野の雑誌のみに掲載されるため、その外部の関心を集めることはほとんどない。

この分野の内部の仕組みは一般の人々にはほとんど知られていない。これは超心理学が独自の世界(サブカルチャー)であり、他の科学分野における評価と直接結びつかないことを意味している。

この孤立がもたらす影響の一つとして、超心理学者は外部からの影響が自分たちに及ぶことに慣れていないということがある。彼らは自分たちの関わるプロセスや動きが予測可能であり、多かれ少なかれ認められたリーダーの制御や影響下にあることを好む。このことで彼らを責めることはできない。しかし、それはこの分野における地位の問題、つまり誰が誰に対して権力を持っているかという問題を引き起こす。

私が超心理学に「参入」した時期、超心理学者が警戒していた外部の影響源は 4 つあった。

まず超能力者、次に懐疑論者、そして3番目に超心理学の境界線の外で活動する独立した急進的な研究者たちである。クリーブ・バックスターや私がこれから出会う他の研究者たちがそれにあたる。

4番目の影響源は、超心理学の問題を混乱させ、脅威的で予測不可能性なビジョンをもたらす存在であり、たとえばFBI のような公的機関による「公式調査」または捜査である。

たとえば1972年当時、警察やFBIが、困難で手がかりのない犯罪を解決するために時々超能力者に相談したという伝聞は長く存在していた。

対外離脱によるリモートビューイング実験の作業は1972 年の年明けに再開された。作業中の最初の「異変」は、その月の2回目のセッションの直前に発生した。

私がASPRに到着すると、誰もが緊張していることになんとなく気づいた。微笑む人は一人もおらず、目の端で私を見つめる者もいた。 ジャネット・ミッチェルも機嫌が悪そうで、いつものような笑顔を見せなかった。

実験を進めるための準備をしていたとき、私はどの部屋にも混乱の気配が漂っているのを感じた。そこで私は言った。「なぜみんなそわそわしているの?何が起こっているの?」

ジャネットは複雑な表情で私を見た。

「本当はあなたに言うべきではないと思うのだけど、何人かの男たちがここにあなたを調べに来ていたの。彼らが来たとき私はここにいなかったのだけど、皆あなたが何か不審な行為のために捜査されていると思っているみたい。」

「捜査――何のために?」

「さっぱり分からない。誰も何も教えてくれないの。」

私は自分が捜査されているということに恐怖を感じた。米国政府は、国連で働く米国人に「道徳と人格の浄化」調査を受けることを要求していることは知っていた。もっとも他の国連加盟国政府は、世界機関で働く自国民にこのようなものを課したことはない。

私は高校時代に公務員の仕事のためのセキュリティ許可を取得し、軍隊にいる間にその他の許可を取得した。だが国連では非常に厄介な目に遭っていた。

国連の許可の範囲は驚くべきものだった。まず、処理に2年かかった。捜査官は私の人生のあらゆる側面を掘り下げた。私が生まれた町、私の個人的な習慣、読んだもの、誰と遊んだかなどに至るまで、すべてが調査された。私は調査官たちから受けた卑劣な質問のいくつかに憤った。

国連事務局に本部を置く国際公務員として働くのに適しているかどうかを確認したいという我が国政府の意向のために起こったことについて、他のアメリカ国民から多くの恐ろしい話が私に語られた。2年後に私の申請は承認されたが、私はまるで刑事事件の取り調べを経験したように感じた。

私の評判は捜査によって傷ついた。 今日、国連でアメリカ国民に関して同じことが起こっているかどうかはわからないが、とにかく私はこの種のことに非常に敏感だった。

ジャネットは何も知らなかったので、私はピンク色のロビーを通り抜けて、すべてを知っていたローラ・F・クナイプ夫人(ファニー)のデスクに行った。 当時彼女は ASPR の事務局長であり、彼女の剛腕でこの由緒ある組織を統治していた。

「彼らは誰なんですか?」と私は尋ねた。

彼らはスーツを着た二人の男で、資格証明書を見せてオシス博士に会いたいと頼み、博士とファニーに私についていくつかの質問をしてきたことが判明した。

そこで私は4階にあるオシス博士のオフィスに行き、彼を質問攻めにした。 彼は密室で彼らと話した内容を自由に私に話すことはできなかったが、彼らに実験室を見せ、実験について説明し、私の実験結果の一部を見せた。

オシス博士とファニーを除いて、誰も彼らが誰であるかを知らなかったようだ。 

この謎が解決されないまま、私はその日中、この出来事について思いを巡らせた。そして、ゼルダの家に行ってスクラブルをプレイし、十分すぎるほどのワインを飲み、さまざまな思索を巡らせた。

ゼルダは微笑み、「あなたの評判は高い地位にまで届いているようね」というようなことを言った。

「それは一体どういう意味?」

「彼らはあなたに興味を持っているのよ。」

「彼らとは?」 (ゼルダからの返答は無し)「とにかく、奴らは ASPR の職員たちをとても怖がらせたことは確かだ。ぼくの ASPR での日々はもう残りわずかだと思う。」

もちろんこの二人のニュースは超心理学のゴシップラインを通じて漏れ広がった。 超心理学界には重要かつ内密なゴシップラインがあり、時には致命的な汚水がそこを通って流れる。私がなぜ捜査を受けたのか理由を知る者は誰もいなかった。そして、事実が入手できない場合、私たちは想像力で理由をでっちあげる傾向がある。

このようにして、私は内向的な超心理学の分野内で一種の「厄介者」となってしまったのだが、それは何らかの理由で外部の公的な利害関係者が私に注目していることを意味してもいた。

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