人体のすすめ

皆様は「私は不要な人間だ」とか「生まれてこなければよかった」と思ったことがあるだろうか。
ある、という人は、案外多いのではないかと思う。どうも人類は絶望しやすい仕様になっているようなので。

某不幸の双子のように心底自分の生まれを呪ってしまった場合は別として、大きな失敗をするとつい投げやり気味に「不要」「生まれてこなければ」と思いがちな人にちょっと勧めたいことがある。

人体の寄付。


人体の寄付です。

お金でもいいのだが、人によっては金銭が絡む善行に心理的葛藤があるらしい(身内談)ので、個人的には人体を推奨する。
人体の寄付は、自分の持つ人体そのものに価値を見いだせるところがよい。

といっても、腎臓とかそういうあれではない。

一番手っ取り早いのが献血だ。
たとえ「魅力も才能もないとるにたらない」人間だとしても、血はある。今日から貴様の存在意義は血液製造。本体は心臓。精神はオプション。OK問題なし。

ちなみに小柄、低体重の人はおそらく成分献血になるので、休憩などなど含めて二時間ほど時間を作っておくことをおすすめする(年齢によってもいろいろ違うようなので詳しくはGoogleでグーしてください)。

献血中安静にするのはもちろん、終えた後も休憩をとる必要がある。自己嫌悪で落ち込んでいる時は休憩していると「こんなことをしていていいのか......」などと思いがちだが、献血の後は自分を休ませることが義務になるので堂々とそんなことできちゃうのである。
栄養もとる必要がある。ココアとか。それは人体への正当な報酬であり、罪悪感を抱く必要は何もないのだ。


長く自己嫌悪を引きずりがちな気の長い人には、ヘアドネーションが向いている、気がする。

医療用ウィッグのために髪を寄付するのだ。
寄付するためには、切った髪の長さが15センチ以上、または30センチ以上必要になるので、年単位で時間がかかる(15か30 というのは、長さによって作れるウィッグの種類が異なるため)。
染めた髪でも、痛んでいなければ問題はない(そのあたりの詳細もGoogleでグーしてください)。

髪を寄付すると決めた時、人は毛髪農家となる。顔から下はいわば培養土。土にはコミュニケーション能力も愛想も記憶力も必要ない。毛髪優先、枝毛警戒、魂は毛先に宿る。
その日から髪がバサバサになるような生活はできない。良いシャンプーを買い、風呂上がりはのんびりゆっくり髪を乾かして、たまにヘッドスパに行ってもいいだろう。
あなたがどんなにダメな人間だろうと、上記はあなたへのご褒美ではないから心配はいらない。生産物に対して義務を果たしているだけだ。

そして十分に髪が伸びたら、満を持してバッサリ切る。できればヘアドネーションに協力してくれる美容室を探して、そこで切る(都市部なら検索すると複数出ると思う)。あとは寄付を受け付けている団体に郵送するだけだ。

長い道のりだが、伸ばしている間はなかなか楽しいし、切った瞬間はスッキリする。髪を送った後もしばらくいい気分である。

あとこれはその美容室で隣に座った女性から聞いてなるほどと思ったのだが、「女体であることを損としか感じない」という気持ちが少し救われる、ことがあるそうだ。多くの男性は、髪を長く伸ばすことはなかなか難しいとのこと。


それにしても、人間が人体を維持しているということは、それだけで大変な価値があるように思える。だってすごくない?毎日自分の体が死なないように動かして寝かせて温度調節して食事を与えているってすごくない?

つまり、なんだ、結局は注射器が苦手で貧血でも、短髪金髪ブリーチ命でも、なんの問題もないのかもしれない。同じことだ。
だって人体を持ってるんだぜ。後ろの人のために扉を開けておくことができるし、売上の伸びないカレー屋に隔日で赴いて自慢の胃袋を披露できるし、壊れた呼び出しボタンのかわりに声帯を使えるじゃないか我々は。すごいぞ。

なんだか最初に思っていたのと違う所に着地しましたが、皆様の貴重な人体を、どうぞ今後も大事にしてください。

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