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ジョセフ・ヒース「フェイクニュースの蔓延について」(2021年4月2日)

〔訳注:本エントリは、カナダのフランス語メディアによるジョセフ・ヒースへのインタビュー記事の要旨翻訳である。投稿者(WARE_bluefield)はフランス語に堪能でないため、基本的に意訳・要約となっている。以上を考慮の上、読んでいただけると幸いである〕

ジャン-フィリップ・ウォーレン(以下ウォーレン):フェイクニュースが増えています。なぜなんでしょう?

ジョセフ・ヒース(以下ヒース):フェイクニュースは、SNS(ソーシャルネットワーク)によるダイナミクスと、SNSで報道が再現される場合のメディア的特質による報道の反映の有り様に起因しています。

Gary King、Jennifer Pan、Margaret Robertsの3人は、中国がどのようにSNSを操作しているのかについての非常に興味深い論文を発表しています。この論文では、中国政府から報酬を得て、SNSに投稿を行った何百万もの人の投稿内容が分析されています。

この研究によって明らかになったのが、こういった中国政府の指示よって行われた投稿内容は、従来のプロパガンダの観点からでは説明できない内容になっていることです。党派性を強調したり、嘘を広めたりする投稿内容ではないのです。こういったSNSの投稿のほとんどが、特定の問題に人々が関心を持つのを防ぐために、話題を逸らそうとしたものになっています。

(ドナルド・トランプの元顧問だった)スティーブ・バノンが「世の中をクソだらけにする」と下品な言葉で言っていたのと同じ手法ですね。

ウォーレン:カナダ人は、「アメリカ人よりも、私達は理性的だ」と考える傾向があります。私達カナダ人は、自分たちが理性的だと信じていいんでしょうか?

ヒース:「ある国は、他の国より理性的である」との先入観を私は否定しません。「理性は集団で達成するものである」と私は考えているからです。

18世紀の啓蒙主義の時代だと、「理性は脳のどこかにある」と考えられていました。つまり、「理性・合理性は個人的営為の帰結である」と想定されていたのです。なので「一人一人が、独力で伝統や迷信の悪影響を克服せねばならない」と考えられていたわけですね。

しかし、独力で理性・合理的に行動するのは非常に難しいのです。理性・合理性とは、相互的な議論や、共同体での討論に大きく依存しています。

こう考えると、カナダ人がより理性的あったり、カナダの公的言論が他の共同体のものよりも理性的なことは十分にありえるでしょう。

ウォーレン:カナダ人は共同体によって議論の水準を向上させた、とのことですが、具体的にはどのような対策を取ったのでしょう?

ヒース:アメリカの進歩主義達は、FOXニュースに常々不満を述べています。私が彼らに「FOXニュースの規制を検討すべきだ」と提案すると、「オー・マイ・ガー!」「お前はいったい何を言っているんだ!?」との反応に会います。私は、「多くの国では、FOXニュースのようなテレビ局は運営が不可能になっている。規制する法律が制定されているんだ」と返答しています。

カナダには、ニュース・チャンネルの運営を制限する様々な規制や放送免許があります。アメリカでも、1986年以前だと、FOXニュースやポピュリズムのラジオ局の一部は、今のように野放しにされていなかったでしょう。アメリカでも過去にはカナダのメディア規制と同じような法律があったのですが、レーガン政権下で廃止されてしまいました。もしこの法律が今もあったら、FOXニュースの隆盛は不可能だったでしょう。

カナダだと、2013年に、〔カナダにおけるFOXニュース〕Sun Mediaが、ケーブルテレビや衛星放送の基本放送網への参加するのを、CRTC(カナダ・ラジオ・テレビ電気通信委員会)が認めなかったのです。これは本当に重要な決定でした。CRTCのこの決定は、Sun Mediaを消失に追い込みました(2015年に放送は終了しています)。これは、カナダでより理性的な政治議論を広めたいと考えている人々にとっては、大勝利だったのです。

ウォーレン:ケベックは、カナダにおける理性的な議論をより促進する役割を担っているのでしょうか?

ヒース:ケベックの最も価値ある貢献の1つが、カナダの政治において、アメリカからの影響力を薄めていることです。ケベックの人達は、アメリカから押し寄せる議論に無視を決め込むことを厭わないのです。このケベック州民が、アメリカからの議論を無視していることは、カナダに対して信じられないほどの恩恵を与えています。我々イギリス系カナダ人は、ケベック州民に感謝すべきですね。

政治だと、カナダにおいて政党が優位性を確保するには、いかなる時も複数の〔イデオロギー〕方面から人材を集めることが重要となっています。つまり、政党は、ケベックとそれ以外の州、両方から人気を得なければならないのです。しかし、政党がこのような政治戦略を選択せねばならなくなっていることは、ポピュリスト右派的には不利な材料となっています。例えば、イギリス系カナダ人のポピュリスト右派は排外主義の一環としてとしてケベックを嫌うことになりますが、フランス系カナダ人のポピュリスト右派は排外主義の一環としてイギリス系カナダ人を嫌うことになります。

これは、欧州連合(EU)内で、〔異なるナショナリズムを掲げる〕極右政党が同盟を結ぶのを困難にしているのと同じような状況になっています。つまり、極右政党は互いを嫌ってるので、強調できないのです。これをカナダに置き換えてみれば、全土レベルでトランプ主義の有権者を一つの政党に組み込もうとするようなものです。そして、言語的な二重性があるので、問題が生じるわけです。

もっともこれは、政治的な構造に起因したものであって、カナダ人が道徳的に優れているからではありませんが…。

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