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ジョセフ・ヒース「ドナー賞最終ノミネート記念インタビュー:公務員の倫理について書かれた本“The Machinery of Government(行政機構)”について」(2021年5月17日)

私達は、選挙で市長、州首相、首相を選ぶ。選ばれた政治家は法律を作り、私達を統治する。しかし、実際に権力を保持しているのは何者なのだろうか? 私達の日常に影響を及ぼす決定を実際に下しているのは誰なのだろう?

権力の多くは、選挙で選ばれた議員にはなく、官僚や行政官(public administrator)にあるとジョセフ・ヒースは考えている。

トロント大学文理哲学科とムンク国際・公共政策大学院の教授であるヒースは、政治哲学についての新著“The Machinery of Government: Public Administration and the Liberal State(行政機構:公行政とリベラルな国家)”で、公務員はどこまで権力を手中に収めているのかを検証している。

「カナダは国家としてよく機能していると思いますが、その成功体験のほとんどは質の高い公行政にあります。残念なことに、この成功体験はほとんど知られていないんです」ヒースは言う。

「政治哲学の分野に目がむけれた時、人は“民主主義と立法府”について語るのに約75%を費やし、“裁判所と司法制度”について約20%費やし、“政府の行政機関や官僚制度”は実質的にほとんど語られません。私がこの本で試みていることの一つが、“政府の行政機関や官僚制度”が持つ権力に着目することです」

“The Machinery of Government(行政機構)”は2020年のドナー賞の最終選考に残っている。ドナー賞は、その年の最も優れた公共政策についての本を表彰する賞だ。受賞は、5月19日に発表される。ヒースがこの賞の最終選考に残ったのは今回で2回目である。2014年には『啓蒙思想2.0』でこの賞を受賞している。

ヒースは、去年5月にはカナダ芸術評議会からキラム研究奨学金を授与されている。〔ドナー賞の最終選考に残って〕「本当に嬉しかったですね」ヒースは言う。「前回ドナー賞にノミネートされた本は、〔ノミネート段階で〕既にかなりの部数を重ねていて、幅広い読者を獲得していました。今回は、ノミネートされなかったら、無名のままに終わっていたかもしれない学術書が候補になったんですから」

官僚制度は、質の高い公共政策を生み出し、公共サービスを提供するにおいて、非常に重要であるにもかかわらず、なぜ政治理論家達によってほぼ無視されているだろう?

「無視されているのは、政治理論家達が、公務員の権力を非正統的なものであると見なしているからだと思いますね。〔つまり政治理論家達の〕一般的見解によるなら、“正当化されるべき国家権力は、なんらかの民主的決定が必要とされている。これは唯一無二である”とされているわけです。しかし、世間一般の人からすれば、これはあまりに抽象的な見解です。人は、4年に1回投票に行きますよね。そして、人は、自身が投じた1票と、制定された政策に関連性があるとまったく想定してないでしょう」ヒースは言う。

私たちは、選挙で選ばれた議員が法律を可決し、国の役人はその法律を制定・施行するためのだけの単なる媒介行為者であると想定している。

「ところが、実際に役人はそんな風に機能していないんです」ヒースは言う。

公行政機関が、私達の安全を守った代表的な事例に、ラドンガスの脅威がある。ラドンガスは、著名な政治家によって取り上げられたことは一度もないが、カナダでは禁煙に次いで肺がんの原因となっている。

ラドンは、土壌が岩石に含まれるウランが分解する際に自然発生する放射性ガスだ。空気中に自然放出される分には問題はない。しかし、屋内のような閉鎖空間だと、高いレベルで蓄積され、深刻な健康被害をもたらす可能性がある。

カナダ保健省は、州政府や自治体と協力して、ラドンガスの国家戦略を制定している。この戦略は、検査や建築基準法に関して詳細な規制やガイドラインをシステム化することで、住宅の安全性を確保している。

「この〔ラドンガスに関する政策は〕、カナダ人の健康に現実的に非常な重要事になってます。裁判所はこれに一切関わっていません。全て、カナダ保健省が実行しています。このような件について憂慮してくる人がいることに我々は感謝しないといけないですね」ヒースは言う。

トロントが、世界でも一級の年であると考えられている理由の一つが、市の計画部門だ。

「トロントでは、信じられないほど賢明な計画決定がなされています。例えば、トロント大学内張り巡らせれた自転車用レーンについて考えてみてください。これら賢明な計画決定の多くは、ロブ・フォードが市長だった時代に設置されていますが、市長が重要視したことの反映でないことは明白でしょう。これらは、市の計画部門のビジョンを反映したものだったのです」ヒースは言う。

「都市の計画部門のようなものは、我々の生活の質の多くを担っていますが、あまり評価されていない政府機構の一つですね」ヒースは言う。

事実として、政府のパフォーマンスは、いかにしてそれ〔官僚機構等〕によって形成されているのかについて、強調してもしすぎることはない。「官僚制度と公務員の質が、政府のパフォーマンスにおける主要な決定要因ですね」ヒースは言う。

「ほとんど一般の人が国家の統治に対して価値判断を下すのは、“自分の子供の学校の先生”、“スピード違反を取り締まる警察”、“病院で受付の向かいに座っている人”との交流です。こういった公務員による、一般の人々への接し方が、“政府の公平性”に対する一般人の認識に大きな影響を与えています」ヒースは言う。

〔一般人は日常の公務員との交流を政府の公平性の判断に直結させている〕ので、〔一般人にとっては〕官僚制度は退屈で重要でないと考えてしまうかもしれない。しかし、それが故に、ヒースにとっては官僚制度は、限りなく魅力的で、注目し、議論する価値があるものとなっているのである。

「“我々は官僚制度を、非合法な権力として見なさずに、政府の機能における正当な権力の一部として認めるべきある”と私は示したいのです。官僚制度による権力は、単に存在するだけでなく、我々が当然視している多くの良き物事に関して重要な役割を担っているのです」

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