スマイル・アニマル・マテリアル

 胸が重苦しくて目を覚ましてみれば、すねこすりと猫が乗っていた。

 すねこすりなんだからすねを擦れ、最近同居している猫に挙動が似てきてやがる。俺がベッドから起きあがると、二匹は迷惑そうにどく。どこかで極楽鳥が鳴いている。喉の乾きを癒そうと冷蔵庫に向かい扉を開ける。ウィンティゴと雪女が密会していたので一言謝って見なかったことにする。

 世界はいきものに溢れている。

 好奇心に取り憑かれた何者かがプリニウス『博物誌』やリンネ『自然の体系』、果ては鳥山石燕『画図百鬼夜行』をバイオボットも印刷可能な3Dプリンタに入力した。あらゆる計算リソースが食い尽くされるという電子的災厄の結果、世界は膨大な数の「いきもの」たちで溢れかえることになった。
 以来、神話生物だのコズミックホラーやらオブジェクト、精霊や妖怪といった存在はありふれた。ニュースを確認すれば、選挙にソロモンの悪魔の一柱が出馬するとかで荒れている。

 俺はカーテンを開き、朝日を浴びる。晴天。日光浴に向いた天気だ。
 背伸びをする。目の端が捉える――光った。音を置き去りにし、ガラスをぶち抜いてなにかが飛来する。推定二キロ先からの狙撃。カッパージャケットにタングステンの弾芯と充填されたジルコニウム・パウダーからなる一撃に直撃され、俺の肉体は激しく揺るがされる。俺自身が爆心地と化す。

 嘆息する。
 まったく、舐められたものだ。

 俺は炎と衝撃のなかから歩を進ませる。口角を歪ませる。笑える。この程度の攻撃で俺を傷つけられるとふんだ浅知恵が。狙撃に心当たりはある。南米でエルフの村を焼こうとした多国籍企業の陰謀を叩き潰した報復だろう。愛猫を守ったすねこすりを褒めると、俺は背中から皮膜状の翼を形成する。窓枠から跳躍。

 極音速のソニックブームで家々を叩き壊さないよう注意して飛翔する。

 レッドドラゴンの俺にケンカを売って、タダですむと思うなよ。

【つづく】

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