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かつて存在したKeyの海外ファンコミュニティKazamatsuri.comについて

このブログは海外オタク文化事情 Advent Calendar 2023 の12/25日分のブログとして投稿されています。

『Kazamatsuri.com』は英語話者を中心としたKeyファンコミュニティである。活動内容は多岐にわたり掲示板上やDiscordでの交流、翻訳の作成、同人誌作成、ポッドキャストの配信などを行っていた。

『Kazamatsuri.com』を見つけたきっかけは英語学習の一環だったように記憶している。2016年ごろ、TOEFLを受ける必要があり、英語の勉強を比較的まじめにやっていた。ReadingやListeningなどは各種ニュースサイトなどでいくらでも練習できたのだが 、Writing や Speakingなどのアクティブに英語で発信する機会が少なくそのような機会を求めていた。オンライン英会話もやっていたのだが、興味のないニュースやスポーツの話題を振られても返答にただ困るだけでモチベーションの維持ができなかった。一方でまあ好きな作品の話ならある程度できるかなと考え、Twitterで英語アカウントでも作ってアニメの感想をツイートしようかなと思っていたところ、このフォーラムを見つけたということだったと思う。そこまでアクティブなメンバーではなかったが、『Rewrite』のアニメ化だったり、『Summer Pockets』の発売もあり、まとまった考えを書くうえでも良い場所だったため、ちょくちょく書き込みを行っていた。

よく考えるとビジュアルノベルの海外展開などを考えるうえでもこういったフォーラムの存在は大きな役割を果たしたと思う。しかし日本語圏ではあまり知られていない気もするので、今回紹介することにした。

活動内容

オンラインフォーラム

掲示板。トピックごとに、種々の議論なり感想の投稿が行われていた。フォーラムのトピックは基本的にKey関連のものが多いが、それに限らず、アニメや他のビジュアルノベルに関するものもあった。

自分がアクティブに書き込んでいたのは『Rewrite』がアニメ化した時と、『Summer Pockets』が発売した時だったと思う。どちらもあまり好きではないのでネガティブなことを書きがちだった記憶があるが、製作スタッフに関する情報や旧2chにしか転がっていない情報を持ってくるメンバーがいたりして結構濃い議論ができていたと思う。

適宜モデレーター権限を委譲することで荒らし行為の調停をしたり、また二次創作などの情報共有をする板の場合は重複投稿を防いだりすることもやっており、基本的には平和な感じであった。

現在新規投稿は受け付けていないが、アーカイブを読むことはできる。

ニュース

日本語を解するスタッフが、日本語で出たVisual Art'sやKey関連の
ニュースの翻訳をして適宜解説を加えるコンテンツ。コメントもできるようになっていた。Twitter上でも投稿をおこなっていた。情報は正確でレスポンスも早かったと思う。

翻訳

メインの活動というよりかは、メンバーが作ったものをホストするような形で公開していた。具体的には『planetarian』 のドラマCDの翻訳などを行っている。『Angel Beats!』の翻訳パッチを作成セするという話もあったそうだが、それは立ち消えになったらしい。

ブッククラブ

一定の期間で各作品を読んだり視聴したりして、感想であったり考察をして、ポッドキャストの形で発表するという形をとっていた。Keyの各作品を扱っており、『リトルバスターズ!』や『planetarian』、珍しいものでは『Love Song』シリーズなども扱っていた。ポッドキャストはYouTube上で観ることができる。

二次創作

同人誌を作る計画があった気がするが、結局どうなったのかはよくわかっていない……。合唱等のイベントをやっていたりもしてYouTube上で観ることができる。


コミュニティの構成

日本語が理解できるメンバーはそこまで多くはない印象だが、『Summer Pockets』を発売と同時にプレイしているメンバーもそれなりに居た。

国籍は様々で英国・米国・オーストラリアなどの英語圏はもちろん、インドネシア・フィリピンなどのアジア圏のメンバー、スウェーデン・フランス・ロシア・サウジアラビアなどの必ずしも英語を母語としないメンバーもいた。(逆に中国のメンバーは中国語コミュニティに行きがちなせいか、いなかった気もする?)

基本的に日本のコミュニティにおいても言えることだが、ゲームをプレイしている人間よりもアニメを見ている人間の方が圧倒的に多い。特に京アニ版の『CLANNAD』の影響力はとても大きいという印象だった。

「どのKey作品が一番好きか?」というコミュニティ投票では、管理人が『リトルバスターズ!』のファンということもあってか、最多票を獲得している。コアなファンが多いということもあってか『Rewrite』を評価している人もそれなりにいた。逆に、『Kanon』や『AIR』をトップにあげる人は少ない。これは2000年代から活動しているKeyファンが多い日本では見られない構成比な気がする。

ちなみに2018年時点では『Rewrite』の公式翻訳版は出ていなかったので、基本的にはファンメイドのパッチを使っているユーザーが大半だったように思う。(しかも一時期はYouTubeに翻訳版の「Let's Play」がすべてアップロードされていたはず。)

2018年に行われていたコミュニティ投票では、プレイ済みのゲームとしては『リトルバスターズ』をやっている人が最多という結果だった。前述したブッククラブなどの影響もあるのだろう。英語版がリリースされていて短い『planetarian』、英語版が先行してリリースされていた『Harmonia』などをプレイしている人も比較的に多い。

どうやってKey作品を知ったかについてのトピックもある。ほとんどの人がアニメをきっかけとして挙げている。アニメについては、「top 10 favorite anime video」のような紹介系の動画をきっかけに見るというケースが結構多い様だ。

Key以外のビジュアルノベルに対するスタンスは様々だった。基本的には公式で翻訳が出ている作品が良く取り上げられていた気がする。(例えばグリザイアシリーズなど)海外発の『Katawa Shoujo』などのトピックもたっている。管理人のAspiretyは竜騎士07thのファンで、そちらのファンサイト(https://rokkenjima.org/)もやっていたため、『うみねこのなく頃に』『ひぐらしのなく頃に』などもわりと話題に上がっていた。他には『D.C.』 シリーズなどの他の恋愛ものに手広く手を出している人、ホラーが好きで、『殻ノ少女』などの狂気を描く作品を好むという人もいた。ただKey作品以外にはあまり興味がなさそうというのが全体的な印象だった。

公式への認知

2018年の馬場社長の新年の抱負の発表においては、kazamatsuriが言及されている。Twitter上で言及していたこともあり、海外への発信力などで一定の認知を得ていたようだ。

2016年のAnime Expoで行われたファンパーティーもメンバーの一人が通訳と企画を担当していた。このメンバーは後に『Summer Pockets』の翻訳にも携わっていたようだ。

閉鎖

2020年に閉鎖が宣言された。具体的な理由は書いていないが、アニメファンコミュニティというのは性質上かなり若いメンバーも多く、その調停に管理人がかなり消耗したというのが理由らしい。

今現在は、非公開、新規メンバー招待なしのDiscordという形態で活動が存続している。Keyのファンを続けている人たちもおり、ヘブバンを相当やりこんでいる猛者や12/23に発売したばかりの『ONE.』 をプレイしているプレイヤーもいる。

ちゃんと確認はしていないが、おそらく旧メンバーが今年の7月まではAozora LookoutというKeyのニュースを投稿するアカウントの運営なんかもやっていた。情報の精度と速さはすさまじく、英語で出ている情報を先にTwitterで目にするということすらあった。ただしTwitterの改悪や、Visual Artsが英語での発信を強化したこともあってか、投稿を辞めている。

終わりに

ビジュアルノベル系で似たようなオンラインフォーラムだとFuwanovelなんどは今でもアクティブだ。あとはredditのvisual novel チャンネルやそのDiscordなんかもアクティブである。また日本語を介する英語話者のみによるDiscordサーバーなんかもあったりする。(残念ながらVTuberチャンネル化している側面があるが…)

ビジュアルノベルの海外展開は、熱心なファンが勝手に翻訳版を作ってきたことに端を発している部分があり(ファンの翻訳を事後的に公式のものとするケースもあったと思う)、これらのコミュニティを見ていると公式の翻訳者が所属していることも多い。日本においては割とファンと製作者の間はくっきり分かれていると思うので、この混然一体とした空気感は興味深い。

ただし海外コミュニティは、海賊版配布コミュニティなどと混然一体となっているケースも多い。正規で入手する手段がないケースが多いのである程度仕方ない部分はあるが、Steamなどで正規流通することも増えてきた中でコミュニティとしてどういうスタンスを取っているのかには留意する必要があるだろう。(Kazamatsuriは海賊版は非推奨のスタンスを取っていた。)

日本から見つけることはかなり困難に思えるが、中華圏にはかなり大きなコミュニティがありそうな印象がある。ここらへんはそのうち調べてみたいところだ。


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