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カタシロRebuild:名越先生の回について

カタシロRebuildとはクトゥルフ神話をモチーフにしたTRPGのひとつで、クラウドファンディングにより舞台化され、また全公演はYou Tubeにて無料で公開されている(詳細は上記リンク先のHPへ)。

大まかなシナリオの中で、プレーヤーがアドリブで対話、行動決定しながら進めていくため、結末やストーリーは演者によって異なるのがTRPGの面白さだと思われるが、今回のカタシロRebuildでは10数名のプレーヤーがゲストとして演じている。

そのプレーヤーとして、いつも学ばせていただいている名越康文先生が出演されたということで見てみると、本当に色々と考える機会になったので、ネタバレしないようにしつつ、その一部をここに書いておこうと思う。

この動画のコメントやチャットの履歴を見ると、視聴者が非常に肯定的に賦活されていることが見て取れる。それは、名越康文TV シークレットトークyoutube分室で公開されているゲーム実況を中心とした動画への反応にも共通して表れているし、視聴回数自体もそれを物語っている(上記動画は本日時点で13万回以上再生されている)。

おそらくこれらの動画を見ている視聴者の中核層は、およそ思春期くらいだと思われるが、このような反応の広がり方は名越先生のもとで何年も学んできた自分から見て、初めての展開であり、非常に興味深い。一体、何が起きているのだろう。

知識と実践の有機的連鎖

名越先生から長年教わっている人の間では、「いろいろなところに話が飛びつつも最終的に本筋に着地する」という体験は何度もしているはずである。というか、毎度そうなる。その時にいつも僕が思うのは、本質的な「問い」が基盤にあるということである。

「人間とは何か」
「こころとは何か」
「生、死とは何か」
「愛とは何か」
「幸福とは何か」

このような、ひとつの答えがないような本質的な問いがいくつも念頭にあり、それについて様々な角度から常に考察していることが、有機的な知識と行動の連鎖を生んでいるのはないかと感じる。例えば先生が見た映画から、いつもこうした答えに対する仮説を聞くのは興味深い。

上記のような動画を若者が見る時、彼らが普段楽しんでいるゲームや漫画と、多様な心理学や宗教学等の学術的知見との融合を肌で感じられるところは、非常に面白いと感じる点ではないだろうか。単に消費されるだけのエンターテイメントではなく、実はどの体験も(そして多くの人に楽しまれているものほど)人間知につながっているのだということを、このカタシロRebuildでは語られているようにも思える。

思春期の専門性と現代の文化への適用

精神科医である名越先生の元々の専門は思春期の心の治療だ。その際、一般的には思春期の患者が「今、何に心が惹かれているのか」を考えるために、彼らが熱中しているものを知ろうとすることは往々にしてある。先生自身がゲームや漫画に熱中できるタイプであることに加え、先生の興味関心は前述した本質的な問いをもとにしているため、その考察はより思春期の心性に響きやすく、また汎用性を帯びているのではないだろうか。現代のゲームや漫画が引き起こしている文化的現象と、先生の専門性がうまく合致した、ある種「時代が先生に追いついた」とも言えるのかもしれない。

これからもっと面白くなる

実は、このような視聴者の反応に、自分が一番勇気づけられていることをここで書いておきたい。それは、先生から教わる心理学、体癖、宗教学といった人間知は、ある意味で間違っていなかったと思えるからだ。もちろん、一度も間違っているなんて思ったことはないのだが、こうして現実的な反応として返ってくることで、より「本質的な何か」が関わっているのだろうと体感できるのだ。(例えば、アドラー心理学を臨床心理士界隈で実践している人は皆無に等しい。精神分析やCBTではなく、アドラー心理学を選ぶにはそれなりに勇気が必要だ)

このYou Tubeを中心とした反応は、先生にとっても興味深いことであり、また嬉しいことであるようなので、きっと今後も展開されていくと思われる。引き続き自分は自分で学ばせていただきながら、「こころとは何か」について考えていきたい。これからもっと面白くなりそうだ。

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