柳家権太楼さんの「芝浜」を13年前、師走の札幌で聞き、涙をちびったというお話②

(承①)

 この日の権太楼さんは、この改心部分の描写に5分余り(多分)かけた。

心の流れはこうだ。

……夢だって?……うそだろう。

でもこの女房がうそをつくはずもない。じゃあ幻想をみたのか。

あんな幻に襲われるようでは…おれの精神は、

根っこっから壊れているに違いない。

ここまで落ちてしまったか俺は……

……情けねえなあ……

といった意味の5分余りの自問自答。

 説明が過ぎては落語の興が失せる。

そのヤボの一歩手前で、権太楼さんは説明を止め、

改心を見事に描き切った。

ここで難問は解決。あとはサゲまで、つまり差し出された酒を前に

「よそう……また夢になるといけない」という有名なサゲまで

一気に人情の坂道を駆け下りる(または駆け上がる)だけだった。

全体で50分ほど。

 夫婦の人情噺には、女よりも男の方が弱い。

客席で泣いていた女性は3分の1程度だったが、男性客は3分の2ぐらいが、

目頭を押さえていた。そう見えた。

気がつくと私もタオル地の大きなハンカチを取り出して……。


権太楼さんのすごさに脱帽した師走の夕。


      ◇ だじゃれコーナー ◇

「落語の芝浜は、亭主と女房のイイ話。

聞いたら、鍋物を、熱々のまま食べたくなったよ」

「へー、なぜ?」

「フーフーをしたくなりました」


https://www.youtube.com/watch?v=Su-zPNeZSns

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