管(くだ) 担当:かわかみなおこ
管が、地面からでてたんです。一本、にゅるりと。
なんでしょうね、ええと、エアコンの水が出る管があるでしょう。ちょうどあのような感じです。あれがね、新しく建てた家の台所の勝手口を出て少し先にあるんですよ。
そうですねえ、長さとしては30センチもないかしら。
地面に接してるところは竹みたいな細い棒が出てて、その先にだらんと管がついてるみたいな。柔らかい管を下に向けて垂らして、雨水とかが入らないようにしてるのかしら。てことは何かの排気口かと思うんだけど、そんなこと大工さんも不動産屋さんも言ってなかったのよねえ。
抜いちゃっていいのかしら、ああいうのって。
井戸の跡とかだったら抜いちゃダメよねえ、でもあそこには井戸がなかったって聞いているし。どうしましょう。
え、ああ、ごめんなさい。顔色が悪いのは、少し寝不足だからかしら。
最近夜中に何度か目が覚めてしまってね。多分近所の猫かなんかが鈴をつけてるみたいで、リン、リン、て音で目が覚めちゃうんです。困っちゃうわよね。
裏庭はすぐ山でしょう、だからご近所の飼い猫だと思うんですけどねえ。
そうそう、話は変わりますけどお寺とか神社って好きかしら。少し前にちょっと変わったお寺に行ったんです。即身仏ってミイラの仏さんを祀ってるお寺さんがあって、旦那がそれをネットで見かけて面白いって言って見に行くことになったんですよ。そんなもんだから、子どもはキャアキャア騒ぎながら行ってお参りしたんですけどね。
ええ、そういうのがあるんですよ。ミイラって言ったらエジプトとかそういうイメージですもんねえ。たしかに何かのテレビ番組で人魚のミイラとか、そういうのがあるとは見たことがあったんですけど、僧侶の格好をしてたんですよ。即身仏というのは。
『あれになる』修行があるんですって。
そうですよね、『なる』って変な話ですよね。でも、あれに『なる』ための工程があることを知って、わたしも驚いちゃいました。あれにうまくなれないこともあるんですって。
それって、どうやるかって。今度調べてみてくださいよ、なかなか大変な話みたいで。お坊さんの修行っていろんなのがありますわね。その極みみたいなものみたいなんで、そのくらいの意志の強さも必要なものでしょうねえ。
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久しぶり、元気にしてました。
そうそう、あの管がなんなのかわかったんです。空気を入れるための管でしたよ。ええ、そう、だからあそこの下に埋まってるものがあってね、そこに空気を入れるためで。旦那が使ってたみたいで。もう必要なくなったんで、抜いちゃいました。これでスッキリしましたよ。
え、ガスとか井戸とかそういうのじゃないのかって。ええ、もう終わったんで大丈夫ですよ。
あ、猫ちゃん? ああ、夜中にって話もしてましたね。あれは、猫じゃなかったんですよ。まあ、猫みたいなものかもしれませんけど。最近はまったく悩まされることもなくなってスッキリしましたわ。
それより最近旦那が家にいないから、今度遊びにいらっしゃらない。
ああ。浮気疑惑はどうなったかですって、そうでした、相談してましたものね。ありがとうございます。それも全部落ち着きましてね。お灸を据えるというか、ふふ。
まあ、ちゃんと反省して生まれ変わってくれるといいですよね、どうかなあ。
あ、注文しないとですね。何頼みますか。
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その話を聞いた半年後に、男女の遺体が彼女の家の裏から見つかった。
遺体の女性は彼女の夫が殺したそうで、生きたまま地中の箱の中に埋めたそうだ。
そして、もう一つの遺体は彼女の夫だった。彼女が女性の遺体を発見した後に夫に睡眠薬を飲ませ、一緒にその箱に押し込んだらしい。
供述で彼女は、「あんな2人が即神仏になるわけないわよね。でも、彼があの女を永遠にしたいと言うから馬鹿らしくなってしまって。一緒に埋めちゃいました」と語っていたと言う。
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「ねえ、なんか、鈴の音がしない?」
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お粗末様でした。
楽しい「ユニーク」からの、ちょっと変な「管」のお話でした。
次は「だ」か「た」、でヤナイユキコに繋ぎます。
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