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私の息子は宇宙人

彼を毎朝起こすのは、携帯のタイマーでも目覚まし時計でもない。
なぜか、私の的確な時間での声かけだ。
一度タイマー設定で起きなさいと言ったら、
『イヤイヤ、あなたの声ですぐ起きてるでしょ。』とわけのわからない返事が返ってきた。
ただ最近は真夜中のオンラインゲームのおかげで、声かけのあと、親指をグットラックにしてそのまま二度寝しやがる。
学校遅刻だぞ。
かれこれ、何回遅刻したら彼は痛みをしるのか?
そんな、彼が最近ダイエットを始めた。
昼ごはん置き換えダイエットをするそうだ。
そうなんだと理解は示したものの、次の日の朝、彼のゴミ箱にカップ麺のカラが潰されてはいっていた。
さては、夜中に食べたな。
又、別の日。
彼はお昼ご飯を食べないときもある。
そういう日の彼のゴミ箱には、ハートチョコ1袋、おかき、かっぱえびせんの空袋がぐちゃぐちゃにされておしこまれていた。
私には、ダイエットの意味がわからない。
だが、『それでも少しは顔がやせたよね~。リバウンドに気を付けないと』というと。
それは、ダイエットが成功した人がする話。と
会話を、一刀両断された。
意味がわからない。
彼が最近美容に目覚めた。
シャンプー、トリートメント系は全てプレミオールに統一。洗顔とパックはCICAだ。夜な夜な顔を洗っては、化粧水、乳液でお肌を整えている。
ノックして彼の部屋に入ると、たまにパック中の彼が椅子に座ってじっとしてる。
少し、怖いのはなぜだろう。
高校生の時は、勝手に私の基礎化粧品を使っていたそうだ。知らなかった。
大学生になり、私が使ってる化粧水と乳液がそろそろなくなるって時に、そこそこ値段のする化粧品を買って補充してくれた。
『使っていいよ。』
アルバイトしてるってすごいなって思った。
彼が携帯を買い替えた。
iPhone15 Pro。
一番気を付けてほしかったのはデータ移行。
案の定すんなりいくはずもなく、LINEの引継ぎがうまくいかない。これは死活問題だ。あーでもないこーでもないと、あらゆる事をしつくした。
最後のだめもとで彼の別のメアドを入れたら、ダウンロード開始。
あれだけ、自分のメアドじゃないと言い切ってたくせにだ。
母は愕然とした。
信じると、たまに裏切られる時もあると言うことを。
そして、人間、絶対という言葉に弱いということを。
彼は携帯を変えた時、NETFLIXを自分で契約したようだ。
1つは彼の携帯で見れて、もう一つは家のテレビで見れるように設定までしてくれた。
ダンナが『携帯で見るのは、目が悪くなるから大きなモニターでも買ったら?』と提案すると
『買い物が下手すぎる。』と捨て台詞を吐かれた。
今どきの若い子には、ついていけない。
 大学生も1年も過ぎると、どうも部屋をシンプルにしてカッコよくオサレにしたいそうだ。ようは模様替えなんだか、毎回彼は夜から始める。いやこれから、私達寝るんですけどって時に限ってゴソゴソ、ガサガサと物をあっちでもないこっちでもないと動かし始めるのだ。
そして、彼の部屋でいらないと判断されたもの達が全て、隣のリビングの部屋に移動してくる。
あれよあれよというまに、彼の部屋から電子ピアノを筆頭に衣装ケース4個、3段ラック2個、細々としたものを入れてたケース2個、ありとあらゆる収納ケース達と山ほどの漫画本、教科書、参考書がリビングに移動してきた。
そして、一言。
『全部いらんから、捨てて。』
うそやん。
リビングが足の踏み場もありませしぇん。
そして、彼の部屋をみたら、スッキリと片付いてあった。
自分の部屋だけ綺麗になっていいのか。
おい、自分の部屋だけ…。
『どんまい。』
そう言って彼はリビングからさって行った。
私は基本整理整頓して、物を捨てるのに抵抗はない方だ。だか、しかし、こんなにある収納ケースを全て捨てるのは勿体ない。
勿体ないおばけがでてしまう。
もやもやした頭をどうにか落ち着かせてその日は就寝についた。
次の日、いつまでもリビングにあんなに物を置かれていては、こっちも息がつまる。気持ちを新たに頑張ろうと心機一転。リビングに一歩踏み出したが、当たり前だか、前日にリビングにおかれた物達は減ってもいないし、しいてゆえばさらに増えていた。
おいおい、大学1年で使ってた教職の教科書とかも捨てるのか?
履修登録に必要な冊子まで捨てるのか??
『うん、いらんで。』
そこはさすがに授業料を払ってる側。
ふざけんな、それくらいはおいとけ!と一喝。
これからが大変だ。こっちに来た可哀想な収納ケース達をどこに置くか問題。
ただでさえ、収納スペースがかぎられている我が家。1個場所が決まったらそこに置いてあったものが又別の所に行ってと、ビリヤードの玉みたいにいつまでもあっちいきこっち行きとなり、なかなか場所が定まらない。
あっー!もうわかった、適材適所!適材適所!
年末の大掃除が始まったかのごとく、ホントに必要か必要でないか、心を鬼にした。やつのいらんもん以外の物達も、悲しいかな審議にかけられ、1番ベストなポジションに収まっていった。
しかし、この作業に主婦業務に携わっているわたしが1ケ月近くかかってしまった。
どんまい。
ゴミもかなりたまり、月2回の燃えないゴミの日の待ち遠しかったこと。ゴミの置き場も馬鹿にならないんだよ。
どんまい。どんまい。
さらに彼は、部屋を素敵にするために新しくラックと小さなオサレなチェストを購入。
なんてことだ、捨てられた収納ボックスたちが浮かばれないじゃないか。
彼曰くさらに、絵画も欲しいそうだ。
いったいどのレベルの部屋を目指しているのだ?
建築系の事務所か?
どこぞのマンションのモデルルームか?
所詮6畳の彼の部屋。
自己満足が甚だしい。
だがしかし、物がないという事は、スッキリと気持ちがいいものだ。それは、間違いない。
うん、うん。掃除は、楽なはずだ。
だかしかし、綺麗だと勘違いしていたのもいっときだった。脱いだ服はそのままの形をとどめ、脱ぎっぱなし。布団もそのまま、引きっぱなし。まして、教科書やプリント類も床に散らばされ、その隙間にお菓子の食べ終わった袋と、お菓子のかけら達がいて、フローリングの床が泣いている。悲しいじゃないか。
 ジュータンまで捨てて、インテリアにこだわったのに、これか。
 所詮性格は、変わらんようだ。
 そんな、彼がしばらくしてソワソワしてやってきた。
 次はどんな、無理難題をおしつけられるのか。
彼曰く、どうもオンラインゲームをちゃんとしたいようで、モニターと大容量ハードとキーボードを買いたいそうだ。その合計金額なんと23万円越え。
それはそれは、こっちもソワソワしてしまう金額だ。どうも分割で買いたいようで、カードが必要になってくるからソワソワしてたんだね。基本私達は、ローンを組みたくないので、親ローンで代わりに購入はしてみたものの、月2万円の返済で1年かかってしまう。まぁ、仕方がない。
今ある通帳から全額引いたら、彼はもう生きていけなくなってしまう。
 待ちかねた商品が、彼の誕生日に到着。
せっかく模様替えしたのにもかかわらず、又々一からのレイアウト変更。ハードがでかい、でかすぎる。配線の問題もあり、まずは机の移動。ハードを上に置くか下に置くかで悩むが、地震大国の日本なので、下に置くことに決定。
そして、なんとかモニターを机の上においたら、もう大学生の机ではなくなってしまった。勉強するための机ではなく、株のトレーダーみたいな机になってしまった。ほんとにこれでよかったのか?教職単位とれるのか?前者のパソコンが泣いているぞ。
もう不安しか感じない。
 ここまできたら、彼のこだわりついでにもう一つ言っておこう。
トップスのハンガーの掛け方にもクセがある。
普通にハンガーに服を掛けると首の所とか肩の所が伸びていやなんだそうだ。
そこで、ネットで調べたのか、服を半分に畳んで胴体の部分を右側、重ねた両腕の部分を左側にが引っ掛けるというハンガーの掛け方を始めた。
彼のクローゼットの中には、そうやって畳みかけられた衣服がズラっと並んでいる。
それは、それで悪くない。
 そうそう、暫くするとトレーダーの机の上に新しくマイク付きのヘッドホンが購入されていた。
又これが、近未来的な形状ですっぽり耳に装着したら、ドアをノックしても反応なし。話しかけても返事もなし。これでオンラインゲームしながらしゃべるんだから、リビングにいる時は何事かと驚かされる。
さらに、急な笑い声には心臓に悪い。
こちら側には何一ついいことなんてないぞ。
えらいもんを購入されたもんだ。
 それから何日かして、夜中に物凄いガラス戸を叩きつけるような雨が降ってきた。絶対やばいって!と思いながら光が漏れてる彼の部屋にノックせずに入ると、案の定、窓から雨が斜めに入り窓枠はびちょびちょにぬれ、床のフローリングもぬれていた。
すぐに窓を閉め雑巾で拭いた時。
彼は、優雅にヘッドホンを装着してゲームに熱中。
急に入ってきた私にまゆを歪め、驚いた彼が一言。
『かってにはいってこんといて。』
おい、私、雑巾で今、窓枠拭いてるよね?
窓からはいってきて、床をぬらした雨粒を拭いてるよね?
怒りマークの💢が私のおでこに3個くらいあったのを是非に、是非に彼に見て頂きたいものだ。
全くもって、私の理解を越える彼の言動は、未知の宇宙人だ。人間わざとは思えない。
宇宙人の中の宇宙人すぎて、全くついていけないぞ。
ただ彼曰く、誰でも宇宙人になれるそうなので、私もきっとその宇宙人の一人なんだそうだか、なんだか全く納得できない。宇宙人ってこんな感じなのかしら。

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