古代のペロポネソス戦争と現代の米中関係
■普遍的な対立関係
文字による記録によれば、戦争で使われる戦略・戦術は紀元前の時代に大半が出現している。そして西暦が始まる時代になると、戦略・戦術は完成していた。さらに国家間の対立関係も紀元前の時代に出現し完成していた。
地中海世界でギリシャ世界が誕生し、ローマ帝国が誕生。そしてローマ帝国が消滅するまでの約1000年間は、現代の世界情勢の本失となった。人間世界の技術は進歩しても、対立関係の本質は約3000年間不変であった。ならばペロポネソス戦争を知ることは、現代の米中関係を知る手掛かりとなる。
当時の人間であるトゥキュディデスは、アテネの人間として戦争に参加。さらに歴史として記録を残しており、現代に普遍的なパターンを残している。これは戦争に至る原因を後世に残しているので、無視できない著作になっている。
■戦略の土台である大陸国家と海洋国家
国際社会の本質は紀元前のペロポネソス戦争で既に完成している。それまでの経験から、人間は環境に合わせて生きていた。この経験則が国家間の対立と、戦略・戦術として蓄積され磨かれた。その中で、人類は地政学と呼ばれる学問を生み出すことになる。
地政学:生活環境が人間の思考と行動を先決的に規制する。
人間は環境の奴隷だから、生きている環境に適合する。その結果、大陸国家スパルタは土地から資産を得ているので、土地を独占する傾向が強くなる。さらに土地が広ければ資産も増える。だから同心円状に土地を増やす傾向になった。
政治は土地を独占するから、下位の人間を生み出す階級社会が強くなる。そのためスパルタは、国内は独裁政治になり、国外には敵を作らない様に民主的に対応する傾向になった。
海洋国家は海外貿易で資産を得る様になる。そうなれば取引相手との貿易で、有利な条件で取引することが優先事項。これを取引相手の都市国家から見れば、海洋国家アテネは独裁政治に見える。それに対してアテネは国外に敵を作るので、国内では民主的に振る舞う傾向になった。
大陸国家スパルタと海洋国家アテネは、生活環境に適合したことで真逆の政治体制と思考に行き着いている。その後スパルタはペロポネソス同盟を、アテネは商圏であるデロス同盟を結成した。
大陸国家:国内は独裁で国外には民主的
海洋国家:国内は民主的で国外には独裁的
ペロポネソス戦争が始まる前の双方陣営は、民主政治が偽善だと批判する。これが覇権として勢力が接触すると、ペロポネソス戦争の原因になった。同時に覇権国家同士の、普遍的な対立パターンになっている。
■現代の大陸国家と海洋国家
現代の中国を見れば、中国共産党による一党独裁政治。国家戦略の第一列島線・第二列島線は、典型的な同心円状の拡大になる。
海洋国家アメリカは国内では民主的。だが国外では貿易用の海上交通路を独裁に近い優先利用。しかも海上交通路に手を出せば軍事行動すら実行する。そのため、商圏内の貿易では独裁と言える。
古代のスパルタ・アテネと現代の中国・アメリカを見れば、双方が真逆のことをしている。大陸国家スパルタと中国は国内では独裁政治を行い、国外では民主的に振る舞う。海洋国家アテネとアメリカは、国内では民主政治を行い、国外には独裁的に振る舞う。
大陸国家スパルタと海洋国家アテネの覇権が接触したことで対立し、ペロポネソス戦争へ行き着いた。現代は中国共産党の一帯一路構想と、アメリカのグローバル・スタンダード(中身はアメリカン・スタンダード)の対立になっている。
■どちらから開戦するのか?
国際社会では先に軍隊を用いて開戦した国が悪になる。理由は開戦は今の平和を否定するから、各国は自国から開戦しないようにしている。その代わりに、相手国を怒らせて、相手国から開戦する様に仕向ける間接的な戦争が使われている。
典型例は戦前のアメリカは日本に対して行ったABCD包囲網やハル・ノート等の経済封鎖や法律論。当時の日本は、この国際社会の暗黙の了解を知らなかった。これで日本から開戦し、日本は悪の国にされた。宣戦布告は飾りで、先に開戦する国は今の平和を否定する行為。これは基本として理解しなければならない。
現代のアメリカは、中国共産党に対して法律論を用いた経済制裁を行い始めた。戦前の日本に対して行ったことを、今度は中国共産党に対して実行している。明らかにアメリカは、中国共産党怒らせている。これは中国共産党から開戦する様に仕向けている証だ。
スパルタとアテネの対立が限界に達し、スパルタの指導者はアテネとの戦争を決意する。この時に次の様に演説したと伝えられている。
「勇気ある指導者は、現在の平和を維持しようと努力するよりも、危機の早期に戦争を決断して勝利し、新しい平和の構築を考える」
ペロポネソス戦争は、大陸国家のペロポネソス同盟と海洋国家のデロス同盟による間接的な戦争から開始。これは代理戦争だが、最終的には大陸国家スパルタからの開戦で直接的な戦争になった。
これが普遍的なパターンならば、米中戦争はイラン・北朝鮮を戦域とした代理戦争から始まるだろう。これは間接的な戦争だが、どちらかが先に開戦して米中戦争に至る。
■中立は有り得ない
スパルタとアテネの対立前から平和的な考えを持つミロス島が存在した。ミロス島は非武装中立を唱えており、仮に侵攻を受けた場合は「アテネかスパルタに救援を求める」方針だった。
現実は非情で、頼みとしたスパルタとアテネが戦争を始める。ミロス島は戦略的価値が高い位置に存在したので、先に占領した陣営が有利になる。そこでアテネはミロス島を予防占領する。非武装中立を選んだミロス島は、屈強な男は殺され女は奴隷として売られた。
ミロス島は日本の憲法9条が、紀元前から使えない概念であることを意味している。3000年前から普遍的なパターンが存在するから、既に国際社会は回避不能の米中戦争に巻き込まれている。
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