ミッドウェー海戦の再現を狙うアメリカ

■アメリカの威嚇
 第二次世界大戦後のアメリカは、中国と台湾の関係を微妙に保っていた。台湾は緊要地形に位置するので、親米派の台湾をアメリカ陣営に入れているのは事実。だが、中国を有望な市場と見ていたアメリカは、中国との関係を優先していた。

 20世紀末になるとアメリカン・スタンダードとインターネットの普及で、中国は”世界の工場”と呼ばれるようになる。台湾は軍事強化を選び、アメリカに兵器購入を求めるが、大半が拒絶されている。これは当時のアメリカが、中国との関係を優先したからだ。

 21世紀になると中国の覇権が拡大。しかも人民解放軍の近代化と量が予想以上であり、アメリカ軍の立場を危うくすると判断された。この段階で、アメリカは台湾に兵器を売るようになったが、アメリカは台湾の立場を変えていない。

米、中国が台湾攻撃なら同盟国と共に対応=国務長官。
https://www.epochtimes.jp/p/2021/11/81754.html

 中国は台湾への軍事的圧力を続けているので、最近のアメリカは公の場で中国を威嚇するようになった。これまでアメリカは台湾を軍事支援することは明らかしているが、台湾と共同作戦を行うかは明確にしていない。

■国防線の位置から台湾を見る
 政治・軍事を見る時に、国防線の位置は今後を予測する手がかりになる。国土を意味する国境線が有り、各国は国土の外で戦争することを戦争計画の基本とする。例えて言えば、家人が泥棒と家の中で戦闘すると、勝ったとしても家の内部は荒れている。最悪の場合は、家族を戦闘に巻き込んでしまう。これでは、家と家族を守ったとしても損害を無視できない。

 それよりも、泥棒と思われる人物が自宅の庭に侵入した段階で戦闘態勢を選ぶ。家人は家の外に出て、庭で泥棒と戦闘する。これなら家の内部は荒れないし家族を戦闘に巻き込まない。この様な発想で、各国の戦争計画は、国境線の外に国防線を置くのが基本になっている。

 これは国防線と国境線の範囲が緩衝地帯であり、想定される戦場になる。国防線を置く位置は各国で異なり、しかも政権交代でコロコロと変更される。余談だが、日本の専守防衛は、最初から国内戦闘を前提とした方針。

 何故なら敵国が国境に侵入してから反撃するので、日本国民が戦闘に巻き込まれることを前提としている。専守防衛とは聞こえが良いが、国際社会では採用されない、戦争計画としては失格なのだ。

国防線1:中国大陸の海岸線
国防線2:台湾
国防線3:バシー海峡

 アメリカがアジアに国防線を置くとすれば、上記の3つが候補。海洋国家の国防線は、基本的に大陸の海岸線に置く。そして大陸国家が海岸部に戦力を集めると、侵攻準備と見なして戦闘態勢を選ぶ。次は大陸の海岸線付近の空と海を戦場とし、大陸国家の軍隊を撃破する。

■基本に反した国防線
 政府と軍隊が想定する国防線が一致しないのは万国共通。何故なら、国力・軍事力・国際情勢で比較し、政府が国防線を変えることは当然。アメリカ政府とアメリカ軍が想定する国防線が一致しないのも当然で、台湾の立場が曖昧なのは、これが理由。

 朝鮮半島を見ると、38度線にアメリカ政府とアメリカ軍の国防線が置かれている。だから、韓国に在韓米軍が置かれている。在韓米軍は、政府と軍の国防線が一致している例であり、明確な立場になっている。

 だが台湾から南シナ海は、国防線の位置が海洋国家の基本に反している様だ。仮にアメリカ政府の国防線が中国大陸の海岸線に置かれているなら、香港をネタに軍事力を用いて中国に干渉するはずだ。

 中国は香港で人権弾圧を連日行い、香港人から救いの声がアメリカ政府に向けられた。しかも中国は、人民解放軍・武装警察を海岸に移動したので、人道を大義名分に軍事介入することができた。だがアメリカは、香港をネタに軍事介入していない。

 韓国・香港は、海洋国家が大陸で活動するための橋頭堡。だから韓国には在韓米軍が置かれ、香港にはイギリス軍が置かれた。香港はイギリスから中国に返還されたが、これはイギリスが、自国を海洋国家としての認識を忘れた証。

 基本的に海洋国家は、大陸の海岸線に国防線を置く。だから韓国に在韓米軍が置かれ、大陸に対して、干渉と関与ができる態勢を維持している。それに平時の段階で、大陸の海岸線に橋頭堡としての友好国を作るのが基本。何故なら、平時であれば大陸国家に対して干渉と関与の戦略を行える。さらに、戦時に橋頭堡を作るのは損害を前提とする。この時の損害を無視できないので、海洋国家は平時に大陸の海岸線に友好国を作る。

 だがアメリカ政府は、台湾から南シナ海までの国防線を大陸の海岸線に置いていないことが明らかになった。では台湾にアメリカの国防線が置かれているのか?仮にアメリカの国防線が台湾に置かれているなら、アメリカ軍の基地が台湾に置かれている。

 現段階では台湾にアメリカ軍基地は無い。つまりアメリカ政府の国防線は、海側のバシー海峡に置かれている。これならば、アメリカ政府が香港と台湾に対して距離を保つ説明になる。

■台湾の役目
 中国が台湾に侵攻すれば、アメリカは同盟国と対応するのは事実。何故なら台湾は、地政学と戦略で重要な場所に位置する。大陸国家である中国が、太平洋と南シナ海に安定して進出するには、台湾占領は必須。

 中国が南シナ海・太平洋に進出するとしても、台湾が中国の後方連絡線を遮断できる。同時に中国が台湾を占領すると、南シナ海・太平洋への出入りは自由。しかも海洋国家である日米が使う海上交通路を遮断できるので、地政学と戦略で王手を行える。

 このためアメリカ政府は、余程のバカではない限り台湾を放棄しない。仮にアメリカが台湾を放棄すれば、アメリカの強国としての立場は低下。海上交通路を中国に遮断されたので、政治・経済・軍事揃って低下する。

 このためアメリカは台湾を放棄しないが、中国から開戦させて台湾との戦争で消耗させることが目的だと推測する。中国が台湾に侵攻すると、人民解放軍は台湾軍に拘束される。この間に日米の艦隊が機動し、人民解放軍の側面を攻撃する機動防御を行うはずだ。

 この戦例は第二次世界大戦時のミッドウェー海戦。アメリカ海軍はミッドウェー島の航空戦力で日本艦隊を拘束。この間にアメリカ艦隊は機動防御を使い、日本艦隊攻撃に成功している。

 日本艦隊はアメリカ艦隊撃破が目的だったが、ミッドウェー島の航空戦力に拘束されたことと、目的と手段を忘れたことで、戦術でアメリカ艦隊に敗北している。敵艦隊を撃破することで制海権が得られるので、アメリカ艦隊を撃破すれば、結果的にミッドウェー島の攻略が転がり込む。

 アメリカ艦隊から見れば、日本艦隊をミッドウェー島に拘束することが成功の鍵。そうでなければ、ミッドウェー島を軸とした機動防御は成功しない。

 アメリカ政府の方針は機動防御。歴史を見れば、ローマ帝国が採用した方針と同じ。ローマ帝国は領土拡大が落ち着くと、国防線を定めて仮想敵国の侵入に対応するようになる。これは仮想敵国が国防線を突破すると、現地の守備隊に持久させ、ローマ軍に反撃させる機動防御だった。

 悪く言えば、台湾は餌。アメリカ政府の国防線がバシー海峡に置かれていることは明らかだから、アメリカ人の人的損害を最大限に回避するミッドウェー海戦の再現を選ぶはずだ。同時に中国が台湾侵攻を選ばなければ、アジアの安定が得られる。この理由から、アメリカ政府は機動防御を選んだのだ。

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