聖夜に向かうアドベントカレンダー  12の窓

聖夜に向かう
アドベントカレンダー  12の窓





# 1
カプセルベッドの壁を隔てた個室から、誰かが羽を擦って奏でるジングルベルが聴こえてくる。それが止んで静寂が訪れ、しばらくすると微かな発射音が響いた。
どこかのカプセルが宙に向けて打ち出されたのだ。故郷でのクリスマスが来たのだろう。
目を瞑り、私は私の時を待つ。





# 2
飛び石を踏む毎に猫が出る。
一つ目、砂利を過ぎった。二つ目、生垣から覗いてひょいと飛びのく。三つ目、後方からこちらを越して走り去る。追って四つ、五つと踏んでゆき、そのうちわらわらと猫に囲まれじゃれつかれながら本堂に到る。本尊はもちろん巨きな招き猫。





# 3
後ろ手に縄打たれ甲板に引き摺り出された俺らは七人、並べられた木箱は七個。
「今日から毎日1人ずつ、順に殺って中に詰めてやる」
鉤爪義手の海賊頭の宣言に震え上がる船員たち。
大丈夫だ、お前ら、耳を澄ませろ。秒針の音が聞こえるだろう?
時計を呑んだ鰐が来る。





# 4
日付け入りの小窓の中にはロボットが。人と見紛う精巧なものもあれば、ツギハギのブリキ製も。
取り出せるのは一日一体。機能は様々、効能はその日限り。
子供達を笑顔にするのもあれば回線の通信速度を速めてくれるのも、この世の全てを裁いてくれる個体もあります。





# 5
ようこそボードゲームの会へ。
あなたはあちらのマスにどうぞ、昇進できますよ。あなたはこちら、転居の目。あなたはそちら、試験には落ちるけど結婚するマス目です。
あなたはあっち、と耳許で声が暗がりを指す。
「何も起らないけど、ゲームをさっさと降りられる」





# 6
「この子にとって初めてのイマジナリーフレンドだから専門店に来ましたの、安物は悪戯好きが多いと聞いて」
母に店主は頷いた。促され、陳列棚の卵を選んで割った途端、目の前に緑色のモンスターが飛び出す。
「Hai,boy. さっそく教えてやろう、ママに内緒でベッドにお菓子を持込む方法を」





# 7
後楽園、兼六園、あなたと歩いた動物園。檻を叩くは類人猿、朝の茶漬けは永谷園、離縁の円環、無縁の永遠、茶の間のこごりを燻るは深淵、枯れん花苑のカレンダー。





# 8
イヴまでは開けないで、と渡された玉手箱を辛抱出来ずに開いた途端、爺になった俺は亀に跨って頭陀袋を担いでいた。熟していないから変成が半端になったのだ。
けどこのハイブリッド感も悪くなくね?
緋色の裳裾を翻し、亀に生えたツノを握ってシャンと鈴を鳴らしてみる。





# 9
クリスマスのことを伝える使命を負って、開拓民の家を一軒ずつ訪ねて歩く。
言葉の通じぬ者どもに聖なる概念を伝授するため、クリスマスを重曹やクエン酸に混ぜて入浴剤に仕立てて配った(あのように体が鱗で覆われていようと、彼等だって風呂には入るだろう)。贅沢にもモミの木の香り付き。





# 10
隠れ里の祝い事なので華美ではない。只、この日ばかりは山路の洞奥に祀られた聖像に触れてよい事になっている。燭を灯して進み行けば、ふわふわと白く膨らむ神体が御自ら名乗り給われ、「あなたの健康を守ります」とハグしてくれる。なんだかとても眠くなる。





# 11
幼少より主の仕事に随行する日を夢見て鍛練を欠かさずにきたけれど、今年もその栄誉を受けたのは他の赤鼻だった。脚や蹄の強さの盛りは短い、もう私にその機会が訪れる事はないだろう。
残った者達と一緒に白銀の天原で雪を掻く。地にも積るよう、彼らの道を護るよう。





# 12
夜の森に集まる子供達。星や靴下のオーナメントをそれぞれ首から提げていて、並んで大きな輪になると「せーの」で一斉に宙返り。みんなで輪の内側に跳び込んで、途端に彼らの姿は消えるけど、霜づいた森が一瞬月下に煌めき光る。翌朝、梢の先に飾りが消え残っていることも。



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