【ぶんぶくちゃいな】香港区議会議員選挙、民主派圧勝に透ける「現実」

12月8日、香港でまた80万人の市民が参加するデモが行われた。いわゆる「和理非」(平和的、理性的、非暴力デモ)を主張する人たちも街を繰り出したデモで、大きな衝突は起こらなかった。

その前の週の日曜日、12月1日にも1日のうちに3カ所で集会とデモが行われ、午前中の「子どもには催涙弾は要らない」と名付けられた集会には幼い子供を連れた親子の姿が多く見られた。だが、午後に九龍半島側の観光客も多い繁華街チムサーチョイ(尖沙咀)で行われたデモ行進は、警察の「不反対通知」を受けていたにもかかわらず、開始からわずか1時間後に警察が中止を命令、その結果、デモを続けようとした人たちと衝突が起き、催涙弾が発射されている。

「なぜだ?」と感じる人もいるだろう。「11月に行われた区議会選挙では民主派が圧勝したんじゃないのか? なのにデモを続ける理由があるの?」と。

単純に言えば、区議会議員選挙で圧勝したことは喜ばしいことではあったが、市民はまだ満足していない。行政長官は区議会議員選挙での親中派の敗北を「我われ政府が至らなかったことに起因する」とし、その結果を「政府に対する市民の声である」と認めたものの、それでも市民が掲げる五大要求の残りの四つはきっぱりと拒絶したからだ。

さらに行政長官は、今週のニュースクリップでも取り上げたように、親中派が「政府の不足」によって大量の落選者を出したことに対する謝罪の代わりとでもいうように、落選者を敢えて公職に任命することを「約束」している。これが税金を預かりつつも、市民の政府に対する批判の声を受け入れる態度なのか。

政府は反省している。しかしそれは親中派議員に対してであり、市民に向けた反省ではないのである。つまり、親中派議員や立候補者は行政長官にとって「仲間」であり、政府の一部であり、その落選は「政府の代わり」だと位置づけられているようだ。

だが一つ、明らかにしておきたい。過去の行政長官選挙では中国中央政府は既存政党の背景を持った、あるいは政治家としてすでに活動している人物を行政長官にすえることを忌避してきた。現行政長官が選出された選挙でも立法会議長(香港では主席と呼ばれる)を務めた曾鈺成氏が出馬の意欲を見せたが、最終的に中央政府のお墨付きが得られず断念している。親中派中の親中派で現在最大の議員を抱える民主建港連盟(民建聯)の創設者であり、初代主席だった曾氏ですら、公務員だった林鄭月娥氏を前にハネられてしまった。中国中央政府、いや中国共産党が既存政治家に対してどれほど慎重な態度を取っているかを示す一例である。

それでも親中派は親中派である。議会においての「数」にはなってくれる。そうやって「駒」として動いてくれることには感謝せねばならない。そういう思惑が透けて見える。

当然、市民は依然として「市民の声」に対して謙虚な姿勢を取ろうとしない行政長官に、「満足していない」ことを示すために街頭に立ったのだ。市民は親中派に対して「NO」を告げたのに、それでも政府は直接「NO」を突きつけられた落選者を重用しようとしている。

市民にとって「逃亡犯条例」改定案提起から始まった、この運動は半年のさまざまな、大小の犠牲を経て、すでに改定案を引っ込めただけでもとに戻るほどお気楽なものではなくなっている。その点を避けて通ろうとすればするほど、市民と政府の亀裂は深まる。その修復を口にしつつもなんの効果的な策を繰り出せないほど、行政担当者としての能力を林鄭月娥氏はすでに失ってしまったといえるだろう。

行政長官はすでに死に体となった。そして、彼女をすげ替えるにも、中国政府はメンツが許さず、またさらなる反発を招くのは必至、加えて理想的な候補者もいない状態。その中で、中国政府寄りの勢力がその正当性奪還を目指して、来年秋に行われる予定の立法会議員選挙に向けて精力を集中し始めたと言われている。

ここで本稿では、よくも悪くも来年の立法会議員選挙の前哨戦となった今回の区議会議員選挙を振り返ってみたい。いくつか大変興味深いデータが報告されている。

●「圧勝」は予想できていたわけではなかった

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