【ぶんぶくちゃいな】愛党無罪 愛港有罪

イギリス紙「タイムズ」は2月18日、イギリス政府が発行する「英国海外国民パスポート」(British National Overseas Passport、以下「BNOパスポート」)を所有する香港市民に対する、イギリスへの移民を目的とした特別ビザを申請した人が、申請受付開始の1月31日から最初の2週間で5000人に達したと伝えた。

BNOパスポートは、1997年7月1日にその主権が中国に返還されることになっていた香港で、当時宗主国のイギリスが香港生まれの市民に同年6月30日まで発行していた。このパスポートは返還後も有効とされ、これを持って海外に出かける香港市民はイギリス国籍者として処遇されるというものだったが、唯一イギリス本国への居住権は含まれていなかった。

しかし、ここ数年の事情の急変を受けて、昨夏イギリス政府が一旦は1997年に終了した同パスポートの支給申請を有資格者に対して再開、さらに所有者に対して「人道に照らし」て新たな処遇を検討し始めた。その結果、前述の1月31日からBNOパスポート所持者に対して将来的なイギリス本国移民を眼中に置いた滞在ビザの発給を始めたのである。

これは、前述したようにもともとイギリス本国の居住権を持たなかったBNOパスポートに対し、まず5年間の就業/就学/その他条件を問わない居住ビザを発給。その満了期に本人からの申請に基づいて無期限居住を認め、さらにその12ヶ月以降に簡単な英語力などのテストに合格した上でイギリス国籍を取得できるというロードマップが準備されている。さらに、もう一つ大きな変化として、この処遇を受けることができる対象を同パスポート所有者本人のみならず、その親族にも広げたことだった。

その結果、申請開始から約2週間での申請者数が5000人に達したのは多いと見るべきか、少ないと見るべきなのか。一部では「最も注目されている最初の申請期間に5000人なら、今後その熱が下がるはずなので減少に向かう」という予想もある。

もちろん、中国政府は同ビザ計画が発表されると同時にすぐさま「BNOパスポートを正式な旅行証券として承認しない」と発表、香港政府もこれに追従する声明を発表している。しかし、パスポートはどれでも発行国が承認すれば通用するものであり、中国や香港政府がそれを不承認としても、イギリスがそれを担保している限り香港人がそれを持って海外を旅するのにはなんの支障もない。

中国政府は「中国国内でBNOパスポートを持つ人間の英国庇護権を認めない」と述べているが、香港人が中国国内を旅する際、ほとんどの人が中国政府が発行する「回郷証」を使っている。なので、これまたBNOパスポートは家に置いたままでかけていける。さらに口の悪い香港人は「中国政府は国籍に関係なく、誰でも彼でも逮捕するんだからどこのパスポートを持っていても意味はない」と笑う。確かにファーウェイ創業者の長女拘束への報復として中国で逮捕されたカナダ人はまだ獄に繋がれたままである。

BNOパスポートに話を戻すと、香港で同パスポート申請の資格を持つ者はすでに取得した人も含めて約350万人とされる。もちろん、その一部はすでにイギリスを含めた他国の国籍を取得しているケースも十分あり、実際にわたしは同パスポートで日本に長期滞在ビザを取得している香港人も知っている。

移民といえば、今月初めに台湾移民署が明らかにした統計では、昨年1年間に台湾において居住認可を受けた香港人の数は1万人を突破した。これは前年の2019年の1.8倍に当たり、さらにはここ30年来で最高の数字だという。また6月30日に香港国家安全維持法(以下、国家安全法)が施行された後に申請した人の数は上半期に比べて倍増、さらには数倍増になった月もあった。

●「お金の移民」と人材の流出

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