【読んでみましたアジア本】政治家失脚の影に絡むカネ、そして権力の切っても切れない関係/デズモンド・シャム『わたしが陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット:中国の富・権力・腐敗・報復の内幕』(草思社)

むむ、むむむ…かなり濃厚で、強烈な一冊である。ここで描かれている世界について、筆者はもちろん詳しくは知らないけれども、同時代を中国で過ごした筆者にとってその内容に違和感はなかった。

中国の政界や政治にかかわる人物(敢えて「政治家」とは呼ばない)をおどろおどろしく、またさも自分が実際に目にしたかのように書く本は山ほどあるが、ここまでつぶさに自身が体験した上で中国政治とカネを巡る関係を描いた本はなかったのではないか。

著者自身も本書出版後のメディアのインタビューで「あなたは傍観者だった? それとも共謀者?」と尋ねられ、はっきりと「間違いなく共謀者」と答えている。一般に内幕暴露本の著者はどうしても、その内容の信憑性を強調するために自分がさもその中にいたと強調しながらも、一方で道徳的な批判をかわすためか、「こうなるのはわかっていた」と高みの見物、あるいは「完全なる傍観者」の位置づけで語ることが多い。ここまではっきりと自身も「レッド・ルーレット」(「赤」=共産主義者たちの賭場)のテーブルについていた博徒であったことを認めた上で中国政界の蓄財について語る人は今までいなかった気がする。

正直、本書に書かれているとおり、「手を染めていない者」が舞台裏に出入りし、見聞きできるなんてことはほぼありえない。良く言えば「郷にいれば郷に従え」、あるいは「共謀者」だからこその相互関係があって初めて成り立つのがその「仲間意識」であり、だからこそ舞台裏を見ることができる。仲間でなければ、その表舞台を眺めて想像を巡らせることはできても、舞台裏からははじき出されてしまう。これは中国という国で暮らした者、さらにそこでなにかに食らいつこうとした経験のある人なら誰でもよく分かるはずだ。つまり、自分だけクリーン、はありえない。

そんな「共謀者」による本書の舞台はまさに筆者が北京で暮らしていた、中国が大激変した時代とぴったり重なっており、実際に体験した変化を思い起こしながら読むと、まるで小説のようなスリリングさを感じた。

●荒々しい中国ビジネスの時代

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