【ぶんぶくちゃいな】「反日」だけじゃない、浴衣コスプレイヤー連行で噴き出した大論争

先週の中国はペロシ議長訪台後の「台湾海峡演習」で大騒ぎだったが、わずか1週間後には「長江沿岸で水源枯渇」→「水力発電大省四川で電力不足」→「上海、長江デルタの経済維持のため、地方の操業ストップ」→「地方31省で財政赤字発覚」→「7月の融資総額の伸び、過去最低」→「テンセントの四半期収支、上場以来最低に」→「ソフトバンクがアリババ株放出」…などと、庶民の生活と情緒を直撃するようなニュースが続々と流れ続けた。加えて、水不足のために秋収穫の農産物にも影響が出ているという。

中でもじわじわと問題視されているのが、「地方31省政府の収支が赤字」という報道だ。

中国には、22の省、5つの自治区、そして4つの直轄市に加え、香港とマカオの特別行政区という地方に分かれる。香港とマカオを除いた、22+5+4は…そう31だ。つまり、「31省」というのはそのまんま、香港・マカオを除いた「中国全土」(一般に「内地」と呼ばれる)を意味し、経済大都市の上海や首都北京(以上二つは直轄市)ですら財政赤字となったわけだ。

ならば、なぜここで「中国全土」と書かないのかというと、それはメディアのギリギリの「自己規制」である。当然ながら「全国」よりも「地方31省」のほうがインパクトは低い。すべての人がわたしのように「あれ、中国っていくつの省に分かれていたっけ?」と調べたりしないからだ。「まだ黒字の地方があるっぽい」イメージを残しておくことでその衝撃度はずっと抑えられる。中国ではたとえ事実であろうとも衝撃的なタイトルで不安を煽れば、当局に記事を削除される可能性が高いからだ。

だからといって、このニュースを「ガセ」とはいえない。というのも、それを伝えているのは米「ブルームバーグ」や英「フィナンシャル・タイムズ」が中国国内向けに配信しているアカウントだからだ。そしてそれらの記事では、そのデータの根拠もまた「各地方政府発表の収支を独自集計した」と記しており、あくまでも「独自集計」とすることで、公式データを集めたものであってもその事実がもたらすショックを抑えることができる(とはいえ、経済関係者にはショックを与えているが)。

一方で中国国内メディアは、その「事実」を裏付けるように、李克強・総理が東部、南部の経済大省を視察し、「国庫への上納を欠かさないよう」と諭して回ったことを強調している。これもまた、前述の海外メディアのように正面切って地方政府財政の逼迫を報道することができない中国メディアの「知恵」あるいは「自己規制」の結果だ。逆に言えば、日頃からそういうニュースソースを持たず、国内メディアを読んでもわからない人にとっては、どうせ伝えてもそれほど重要なニュースではないという扱いなのだ。

当然そのしわ寄せは庶民生活にも押し寄せる。これまではよく、その「うっぷんを海外に向けさせる」という手法がよく取られてきた。今回の台湾海峡の軍事演習もその一環だったといえなくもないが、こちらは前回触れた通り、庶民が期待したような「ペロシ議長搭乗機撃墜」には至らず、逆に庶民に失望をもたらした。それもあって、政府は庶民の目を「演習」の話題から遠ざけつつあると感じている。

…と思った矢先、再び「海外案件」が持ち上がった。だが、今回の舞台は「海外」ではなく、江蘇省蘇州市である。同市内の「日本風情街」と呼ばれる淮海街で、中国人コスプレイヤーが日本の浴衣を着て写真を撮っているところを警察に逮捕されたことがネットで大きな議論を巻き起こしている。

すでに日本でも一部メディアが取り上げ、SNSでも「また反日」というタグで語られ始めているが、今回の出来事はそう単純に「また反日」でくくってしまうこともできない波紋を引き起こしている。なので、ここで事実と、これをきっかけに交わされている議論をきちんとまとめ、ただの「また反日」で終わらせるのではなく、「今どきの中国」を一歩深く理解するための資料としたい。

●「日本風情街」で起きた事件とは

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