【映画に見る中華圏】童謡「ふるさと」に想う台湾/黄銘正監督「湾生回家」

「日本で出版された中国本を読む」のがこのマガジンの趣旨ですが、11月は読みかけの本はあるものの、取り上げるほどの本に当たりませんでした。なので、ちょうど現在、東京神田の岩波ホールで上映中の台湾映画「湾生回家」(原題同じ)を取り上げます。同作品は今後各地での上映が決まっており、上映スケジュールはこちらで確認いただけます。

◎黄銘正監督「湾生回家」http://www.wansei.com

「生まれた場所」というのは、人のその後の運命にどれほど影響を与えるものなのだろう。

たとえば、わたしが生まれたのは、母が里帰りした先の岡山県だった。だが、物心がついてから「あの病院で生まれたのよ」と教えられた病院はまだ今でも残っているが、特に懐かしいという想いはない。どちらかというと、その病院の並びにあった、母の育った家の方が懐かしい。そこに住む祖母に会いに行ったという思い出があるからだ。つまり、完全に「あと付け」の理由によるものだ。

もちろん、ある土地を懐かしく、狂おしく想うのは必ずしもそこに生まれたという理由だけではないだろう。わたしにとっての香港がそうだ。条件が許せば今でも香港に引っ越したいと思っている(だが、香港は住居費が高すぎる…)。しかし、14年暮らした香港と同じくらいの13年半を過ごした北京には時折遊びに行ってもいいなと思うが、香港ほどの思い入れはない。どちらも自分の意志で選び、また特に失望して離れたわけではないが、「想い」は年月の長さによるものでもないらしい。

何が自分の「記憶」を揺り動かすのだろう。何が人をある土地に狂おしいまで惹きつけるのだろう。

●「湾生」と童謡

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