【ぶんぶくちゃいな】元朗無差別襲撃で深まる香港政府と市民の矛盾

このところ、毎週のように香港事情のレポートになってしまい、中国事情をまとめられないでいる。「ぶんぶく“ちゃいな”」なのに大変申し訳無いと感じつつも、実際のところ香港で日々起こっていることに比べて、中国のニュースにこれといって話題に取り上げたいトピックがないのも現実なのだ。

中国ではこれといったニュースがない、というのは、「大きな事件/出来事がない」という、暮らしている人にとっては大変喜ばしいことである一方で、ニュースが散漫化しているせいのような気もしている。これは本当に深く突っ込む必要がある出来事が少ないせいなのか、それとも当局によるニュース規制のせいなのか(もちろん、中米貿易戦争などは続いているが、これは基本的にマスメディアの好物なので、わたしがここで素人分析をしても意味はない)。

「微信 WeChat」(以下、WeChat)に開設されている公式ニュースアカウントで顕著なのは、ニュース管理当局に登録してニュース配信の許可をもっていないサイトやオンラインアカウントが独自に「ニュース」を配信することが大きく規制されるようになっていることだ。もちろん、当局によるニュース配信許可はそう簡単には取れず、基本的に国有メディア中心(つまり、評論も分析も記事内容も統括しやすいメディア中心)にのみ下りる仕組みだ。そしてその他のアカウントは、そんな許可証を持つニュースメディアが配信した記事を、そのまま転載することだけ許されており、それを分析したり、推察したり、さらには憶測することすら許されていない。このために、当局が引いた「ある一線」を超えると、その記事の削除だけではなく配信中止、運営停止、ひどいときにはアカウント取り消しの処罰を受ける。

いつもニュースチェックしているニュースアカウントが、ふと気がつくと1週間くらい沈黙している。なにか直前に彼らが配信した記事の内容が当局の禁令に触れたのだろうが、その間なんの通知もない。そして、1週間、あるいは長いもので1ヶ月ほど経つと、まるで何事もなかったかのようにまた配信を開始する。こちらにできるのは前回の配信日と復活した日を比べて、「ははーん、1週間の活動停止だったのか」と理解することくらいである。

ただ、これまでだったらどこかのサイトが当局の「琴線」に触れるニュースを流し、取り締まりにあったときには他のサイトが騒ぐからその理由を推測することもできたのだが、今はそのことすら「禁止」されているのか、それともあまりに日常になりすぎてニュースバリューがないのか。復活したアカウントもこころなしか、以前に比べて取り上げるニュースがだんだん「甘め」になっているような気がする。

こういうことが続けば、当然ニュースは次第に深い泥をさらわずに水面の澄んだ場所だけを拾って日常の中で薄められていく。出来事の当事者ではない我われがその「浅さ」に気づくのは容易ではないし、さらに言葉でその変化を解説して伝えるメディアがなければ、これは定点観測による比較でしか気づくことはできない。つまり、今の中国で「大したニュースがない」が、その根底を揺るがすような大事件が起こっていないだけであることを祈るしかない。

●読み違えた中国分析はなんの役にも立たない

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