【ぶんぶくちゃいな】中国の「下半身」と冬季北京オリンピック

 皆さん、こんにちは。彭帥です。
 先日、WTA[訳注・女子テニス協会]の公式サイトで発表されたニュースに関して、あの内容はわたし自身が確認、検証したものではなく、わたしの同意なしに発表されたものです。発表されたニュースは、性的暴行の疑惑も含めて事実ではありません。わたしは行方不明でも安全でない状況にもありません。自宅で休息しているところで、なんの問題もありません。わたしのことを気にかけていただき、重ねてお礼申し上げます。
 WTAが今後、わたしに関するニュースを発表する際には、わたしに確認し、わたしの同意を得た上で発表していただきたく思います。プロのテニスプレーヤーとして、皆さんの友情やご配慮に感謝しています。今後もチャンスがあれば、皆さんと一緒に中国のテニス界を盛り上げていきたいと思っています。わたしは中国のテニス界がもっともっと良くなっていくことを願っています。
 ここであらためて、ご理解に感謝します。

中国の日付が11月18日に変わったのとほぼ同時に、中国の政府系海外向けニュースネットワーク「CGTN」(China Global Television Network)がそのツイッター公式アカウントで、女子テニス選手の彭帥(パン・シュアイ)選手がWTAのスティーブ・サイモンCEO宛てにメールで送ったという書函を公開した。

彭さんは今月始めに中国SNS「微博 Weibo」(以下、ウェイボ)に書き込みをしたが、それは30分もしないうちに削除され、また彭さんのアカウントを検索しても「結果なし」と表示されるようになっていた。もちろん、ご本人もまったく姿を表さなくなり、今週初めにはWTAのサイモンCEOも懸念を示すコメントを発表している。

サイモンCEOは続けて、米国メディアのインタビューで、彭さんの身の安全についての十分な説明と彼女のウェイボでの告発について、きちんとした調査が行われない場合には、同協会は今後中国市場を失うことも辞さないとする、きびしいコメントを発表していた。

このWTAのコメント発表を受けて、世理奈・ウィリアムス、大坂なおみ、ノバク・ジョコビッチ、キム・クライシュテルス、クリス・エバートら、世界的に有名な歴代トップテニス選手らが続々と「#WhereIsPengShuai(彭帥はどこに)」のタグとともに、事態が今のままであってはならないと声を挙げている。

その一方で、彭帥さんのものとして発表されたメールの真実性について、多くの疑問が呈されている。

一つは、「WTAのサイモンCEO宛の書函」のはずなのに、書き出しにはWTAの文字もサイモンCEOへの宛名も入っていないこと。「皆さん、こんにちは」は明らかに大衆の目を意識した書き出しである。

二つ目は、このメールが彭帥さん自身ではなく、またサイモンCEOやWTAではなく、CGTNという中国政府直轄のメディアが公開されたこと。

このCGTNは世界に支局や特派員を置いているが、2018年にはトランプ政権下の米国司法省に「外国代理委任登録法」に基づき、CGTNはメディアではなく「外国政府の代理人」と認定された。その結果、米国駐在のCGTN職員は「中国政府の公職員」、つまり大使館員らと同等とみなされ、両国間の公職者派遣人数枠に沿って職員削減を強制された(その報復として、中国はウォール・ストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズ・カンパニーなど米国系メディアの記者の一部を中国国内から追い出した)。その措置はバイデン政権下の現在も撤廃されておらず、つまり米国では、CGTNはメディアというよりも大使館と同じ中国政府の公的機関と認定されている。

そんなCGTNが、自身のウェイボアカウントですら発言ができなくなった彭帥選手の「代理」窓口を務めたのだから、「匂わないわけ」がなかった。

●「妻が見張りに立った」


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