【ぶんぶくちゃいな】香港区議会選挙の「制度完備」で見えてきた新「下剋上」

香港区議会選挙が今月10日に投票を終えた。

2019年末に行われた前回選挙では、同年6月以降続いた、アンチ政府デモの勢いに乗って民主派が新人候補も含めて全議席の8割を獲得したが、今回の選挙の目的はほぼ、そうした民主派の存在を公的機関から一掃することに置き換えられていることは、「【ぶんぶくちゃいな】仕組まれた権力の罠:『一国二制度』下の香港区議会選挙」ですでに述べたとおりだ。今回はその結果、見えてきた「新たな政治風向」についてまとめておきたい。

前回は香港史上最高の投票率71.2%を叩き出すほど関心の高さとなったが、今回の選挙がどれだけそれに近づけるかが当局の関心の的となった。選挙の性質こそ違え、19年の区議会選後の選挙となった2021年の立法会議員選挙も30.20%に終わっている。

2020年に「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)が制定され、続けて「制度の完備」と中国政府が呼ぶ「選挙制度の見直し」が行われた結果、市民は「参与する意義」を見いだせなくなった。そして、やはり区議会でも選挙制度が改正されてから最初となった今回の選挙を、当局は「制度完備の仕上げ」と謳っていた。

当局はあの手この手を使って投票率アップに結びつけようとした。特に19万人の公務員に対しては、「投票は公務員の義務だ」という声が飛び出したり、返還直後の選挙を真似て投票済み有権者に「感謝カード」を発行するという案が登場したり、いやそれは公務員が実際に投票したかをチェックするためのものだという噂が広がり、投票の自由を巡る大議論まで巻き起こした。

また、投票日前日の9日夜には、香港中のテレビやラジオ局から人気芸能人やDJたちが総出演して、投票を呼びかけるエンターテイメントショーまで開かれた。とにかく話題作りのためには「カネに糸目はつけない」のような発言が、政府ナンバー2の陳国基・政務長官から飛び出し、「いったい税金をなんだと思っているんだ」という批判の声も渦巻いた。

ただ、一説によると、今回の政府の選挙キャンペーン費用に使われた資金は、2019年に当選した区議会議員たちに本来支払われるはずだった賃金や経費を転用したらしい。というのも、国家安全法に基づいて2021年に公職者の「国家への忠誠宣誓」が義務付けられたことで、宣誓を嫌ったり、宣誓はしたものの無効と判断されたりなどした結果、330議席が空きとなり、その関係費用が宙ぶらりんになっていた。

そして、12月10日に投票が行われたが、投票率はわずか27.54%、香港の主権返還(1997年)以降最低となった。一時は事前に「30%は確保した」などという情報も流れていた。それからすると、客観的に見ても当局にとって決して理想的な数字ではなかった。


ここから先は

4,005字
この記事のみ ¥ 500

このアカウントは、完全フリーランスのライターが運営しています。もし記事が少しでも参考になった、あるいは気に入っていただけたら、下の「サポートをする」から少しだけでもサポートをいただけますと励みになります。サポートはできなくてもSNSでシェアしていただけると嬉しいです。