【ぶんぶくちゃいな】「愛国ブランド」ファーウェイが人々に唾棄されるとき

ちょうど1年前の今ごろ、中国は二つの話題で世界のトップニュースを賑わせていた。あれから1年も経ったんだ、月日が経つのは速いものである。

一つは、ゲノム編集出産事件。HIV(ヒト免疫不全ウィルス)陽性の親から生まれ、ウィルス遺伝への抵抗を持たせるためにゲノム編集によって遺伝子を改変された双子の女の子が生まれたと、11月末に中国深センの研究者が発表し、世界中が蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。

その過程はすべて秘密裏に行われており、またこの発表直後に同研究者が出席して学会でも、同研究者の口からは一切、倫理に関する発言が出てこなかったことも世界の懸念を深めた。中国共産党中央委員会機関紙「人民日報」もこの出産のニュースを「世界初、エイズ免疫ゲノム編集による嬰児が中国で誕生」と謡い、報道しており、やはり記事内でも倫理についての不安には触れられていない。

しかし、世界中で「超えてはならない一線を超えてしまった」という不安が増幅するにつれて、「世界初」に浮かれていた中国政府も事態の、というよりも、世界に与えてしまった不安と驚愕の大きさに気がついたらしい。この研究者は所属大学から罷免され、ゲノム編集を行ったとされる同研究者が運営する企業の研究室も閉鎖、研究者の行方も明らかではない。

だが、生まれた子供と親たち(研究者は「近く3人目が生まれる」ことを明らかにしていた)に対するケアはどうなっているのか? いや、その親子たちは無事でいるのかどうかですら、まったくわからない。経済メディア「財新網」が今月5日に、昨年同研究者が米誌「ネイチャー」などに投稿したものの掲載されなかった論文の一部が流出していると伝え、その論文によると双子の研究は失敗に終わったことが記されているという。だが、その「失敗」は生まれてきた子どもたちにどんな影響を与えてしまったのか、まったくわからないままとなっている。

もう一つ、このゲノム編集出産とほぼ同じ頃に爆発的に注目を浴びたのが、精密機器メーカー「華為 Huawei」(以下、「ファーウェイ」)の孟晩舟CFOがカナダで拘束された事件だった。孟氏は任正非・ファーウェイ会長と前妻の間に生まれた長女であることもこの事件を意味深なものにした。ファーウェイが米国内で不正な取引を行ったとする米国からの要請による代理拘束だった。

アメリカからは今年に入って身柄引き渡し請求が行われたものの、孟氏側がカナダ側が引き渡しのための審査している最中にカナダ政府をカナダ憲法違反、人権侵害などで訴えた。現在も係争中で、孟氏は外出制限などを受けつつも今のところバンクーバーにある自宅で生活している。だが、事件以降、米国と中国、米国とファーウェイの間の攻防戦が激化、ファーウェイは米国企業との取引を禁じられ、スマホ製品のOSもグーグルのアンドロイドから自社製OSへと切り替えざるを得ない状況となっている。

この事件をきっかけに中国国内で巻き起こった「ファーウェイ支援」ムードの結果、ここ1年の国内スマホ不況の中での成績はなかなかのものではあったが、将来を考えると厳しい現実に直面していることは間違いない。だからだろうか、孟氏はこの12月1日に手記を発表した。改めて、「異郷」(でも「自宅」なんだけどね)での「理不尽な生活」(仕事が忙しくないから「絵を描いたりしている」んだそうで)を振り返り、親子の情、そして愛国の情を書き連ね、新たに国内の人々の涙腺に訴えかけようとしていたようだ。

だが、「ファーウェイ無罪」「ファーウェイ愛国」の熱い声は巻き上がらず、1年前のこの事件はもうほぼ話題に上らなかった。というのも、1年後の今、ファーウェイ自身は今度は国内の厳しい視線にさらされていたからだ。

●なぜエンジニアは訴えられたのか

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