【読んでみましたアジア本】日本と香港の関係史から「香港を知る」/銭俊華『香港と日本――記憶・表象・アイデンティティ』(ちくま新書)

すでに思い出したようにしかニュースには上がってこないが、実際に香港に降り立つと、毎日のように人々の生活が迫ってくる。

評論家たちが語る「香港」も嘘ではないのだろうが、どこか遠い時空の世界のようだ。島国の日本にとって、「海外」は常に海を隔てた向こう側の世界であり、自然のシールドで隔てられている。だから時に妙に神格化とまではいかないものの昇華されていたり、受け取り側の現実によって大きく違う想像が掻き立てられる。

もちろん、それを日本人の悪いところ、などというつもりはない。世界各地、誰しもが同様の距離感を世界に感じている。だが、その地域が逆にこちらに熱い視線を向けていることに気がついた時、あなたははっと気づくはずだ。

わたしは相手のなにを知っているのだろう…?

この本は日本人読者に向けて特化した、香港事情の紹介の形を取る。日本人がいまの香港を語る時、多くの人たちが日本と中国の距離を考えつつ、その上で香港で起きている出来事を判断している。たとえば、「自分はいまの中国が嫌いだから香港市民の運動を支持する」、あるいは「自分は中国をよく理解して友だちもたくさんいるけど彼らから聞く香港体験は酷いから、香港人は信用できない」、ときには「中国と距離感を置こうとする台湾を好きだから、香港の中国との距離感を応援する」…といったような。

それが「悪い」というのではない。だが、そういう言論を見聞きする時、わたしがいつも感じるのは、じゃあもし香港があなたの期待するような立ち位置を取らなくなったら、あるいは取らなければ、あなたは香港をいかに評価するのだろう?ということだ。

毛沢東は言った、「敵の敵は友だ」と。たぶん、中国が嫌いな人にこう言っても納得しないだろうが、あなたは中国を嫌いつつ、中国で「偉人」と言われる人の言葉通りに考え、行動している。その矛盾に気がついているだろうか?

中国が嫌いだから、台湾が好きだから、と言う理由ではなく、香港そのものを直接好きになってほしい、理解してほしい。この本にはそんな思いが詰まっている。

●香港人の「日本への思い」に応えられるか?

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