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【ぶんぶくちゃいな】元朗721無差別襲撃は「香港の天安門事件」だ

7月21日が巡ってきた。昨年のこの日、香港郊外の元朗にある地下鉄の駅で無差別襲撃事件が起こり、居合わせた妊婦1人を含む45人が重軽傷を負った。

この事件は昨年の香港デモを語る時、ぜったいに忘れてはならない重大な事件となっている。筆者もデモについてコメントを求められるときは必ず、この事件がデモ全体に与える影響の深刻性を強調してきた。だが、日頃から香港問題に関心を持っている人以外、ほとんどの日本人はこの事件に対してイメージのかけらもないのが現実である。

なぜか。

いつもの物言いになるが、主には日本メディアがほとんど触れようとしていないからだ。その最大の理由は、当日日本を含め多くの海外メディアの目は元朗ではなく、そこから30キロ離れた香港島の中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)ビル前にデモ隊が突入すると言われ、厳戒態勢が採られていた。「香港のデモがとうとう中国政府の出張所を襲撃」――それだけで中国から出張取材に来ていた記者にとってニュースネタだし、実際に翌日の日本の新聞はほとんどがトップページでそれを取り上げた。

だが、香港メディアのトップページを埋め尽くしたのは中連弁ビル前の衝突ではなく、元朗の無差別襲撃事件だった。今になってもその比重は全く変わらない。「特派員が目にしたニュース」を最優先する日本のメディアは逆に、以降もずっと、中連弁衝突を元朗無差別襲撃事件より重視し続けている。

今年も7月21日前後には香港メディアはさまざまな角度から同事件を検証する報道をしたが、そこから改めてこの事件の重要性を振り返る日本のメディアはほとんどなかった。現地では1週年の抗議集会が行われ、そこで一部の人たちが逮捕された、そんな記事しか流れていない。きっと読者は、「ああ、香港ではまだ続いているんだ」程度にしか感じていないだろう。

だが、香港メディアの熱の入れ方は違った。多くのメディアやジャーナリストが事件を振り返り、捜査が進んでいないこと、そして事件が昨年の一連のデモを大きく変えた分岐点になったことを異口同音に報じている。香港社会はいまだに「721元朗無差別襲撃事件」に受けた衝撃やその傷から回復していないのだ。

その衝撃というのは、香港の警察が「法律に基づいて、法律と社会を守るために行動しているわけではない」と市民が感じ始めたこと。そして、警察は自分の目的を達するために、ある種の勢力と裏で手を組み、一般市民の犠牲すらいとわないこと。そして市民すら犠牲にする警察はすでに市民にとっての「敵」になったこと――である。

ジャーナリストの曾志豪氏は同事件の衝撃について、自身のYouTube番組(広東語ナレーションのみ)で「香港の天安門事件に相当する」と形容した。彼がそう呼ぶ理由については詳しく後述するが、メディアが自らの手で一枚一枚玉ねぎを剥がすように事実を明らかにしていく過程には、たしかにそれに近い執念が感じられる。

今回はそれらの報道から新たにわかったこと、そして事件がなぜそこまで重要なのかについて、メディアの分析と評論から取り上げたいと思う。

●721元朗無差別襲撃事件とは

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