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【ぶんぶくちゃいな】経済学者許成鋼「ChatGPTをめぐる中米AI競争」(前編)

ネットや技術に関心のある方はすでにChatGPTの話題に触れておられることだろう。この、米国企業「OpenAI」が開発した人工知能で駆動される「チャットボット」は、中国でも大きく注目されており、まず技術屋さんから、そして一般のビジネスマンにも、「新しい世界を切り開くツール」として論じられている。

わたしもまだちょろちょろっと触ってみただけで、それを論ずることができるほど理解しているわけではないのだが、中国で目にする話題は、これは米国の技術によって開発された製品にも関わらず、ぴょーんと「さて我われは世界的にトップ技術を誇っているのだから、我われがリードすべきだ」的な論調になっているのがちょっと不思議だった。

だって、今や米中の技術冷戦の真っ最中で、中国は半導体の自国開発を急ぎ、きゅうきゅう言っているときなのに、米国で公開された技術がそんな簡単に中国でビジネス化できるなんて美味しい話があるんだろうか?と。

そこに、以前もご紹介したポッドキャスト「不明白播客」で経済学者の許成鋼氏が、中米間のChatGPT話題についての解説をしておられた。すぐにその運営者であり、「ニューヨーク・タイムズ 中国語版」編集長の袁莉さんに許可をいただいてその内容を日本語に翻訳し、今回と3月11日号の2回に渡る前後編に分けてご紹介する。

許成鋼教授については、《【ぶんぶくちゃいな】経済学者許成鋼に聞く「中国経済に希望はあるのか?」(前編)》でご紹介したのでそちらを参照いただきたい。

なお、以下の内容における[]は筆者による補足、そして一般の日本人読者にはすぐにはピンとこないであろう、中国の事情について個別に解釈をつけた。



◎ポッドキャスト「不明白播客」:経済学者許成鋼に訊く「ChatGPTに見る中米人工知能競争」

袁莉:みなさん、こんにちは。「不明白播客」にようこそ。

約2ヶ月前、米「OpenAI」社が人工知能が駆動するチャットボット「ChatGPT」を公開し、注目を集めています。この間に登録ユーザー数は1億人を超え、ネット上ではChatGPTが今後いかなる次世代テクノロジー革命を引き起こすのか、これまでのビジネス、教育、就業の常識が大きく変わるといった議論が展開されています。SNS「微信 WeChat」(以下、WeChat)の公衆アカウントには、「座ってやる仕事はすべて人工知能によって消滅する」という記事も流れていました。

同時に中米間のテクノロジー冷戦が激化しています。「人民日報」は2月2日に「鐘声」という名の署名記事を掲載、「米国は中国のハイテクノロジー産業を叩くだけではなく、一部の国々に対して輸出規制を乱用し、中国を牽制するよう無理強いしている」と述べています。

中国に対して世界が警戒感を高め始めたのは、中国政府系メディアが「中国製造2025」を喧伝し始めたのがきっかけでした。2015年に発表されたこの行動計画では、オートメーション、半導体、自動運転などの工業分野において中国の競争率を高めていくことが謳われています。中国がこの計画にかける意気込み、そして中国IT企業が開発した大量のAIアプリケーションが、中米テクノロジー戦争へと発展したわけです。

しかし、中米はテクノロジー革命において本当に「食うか食われるか」のライバルなのでしょうか? ならば、なぜ中国の「挙国体制」半導体産業が米国の締め付けに苦しんでいるのか? なぜ最初に中国でChatGPTのようなアプリケーションが生まれなかったのか? EVやEV電池などの分野における中国の技術的先進性は、本当に中国の体制優位を表しているのでしょうか?

これらの疑問を巡って、本日は再び米スタンフォード大学の中国経済及制度研究センターの高級研究員、許成鋼教授をお招きしました。経済学者である許教授は、テクノロジーやAIについても研究を行っています。

同教授は1982年、清華大学機械工学部の大学院で初めてコンピュータ補助設計を研究した卒業生となりました。教授のテクノロジーやイノベーションへの興味は、科学史学者であり、アインシュタインの著作翻訳の第一人者として知られるご尊父、許良英教授の影響もあるのでしょう。

1980年代に刊行された『テクノロジー技術略史』において、許教授は「コンピュータと社会学」の章を担当され、コンピュータ技術においてソ連や中国が米国や日本に遅れていることに関して制度的な原因をまとめました。2018年にはご自身の研究室で「中国人工知能インデックス」を設立し、人工知能に関する中国の特許が引用された回数や人工知能関連スタートアップ企業の融資規模、その特許数などを国際データと比較し続けておられます。

今回は中国の経済テーマシリーズの1本として、2月9日にインタビューを行いました。

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