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【ぶんぶくちゃいな】周保松:自由への途上

今回は、香港中文大学の周保松教授の著書『我們的黄金時代』(わたしたちの黄金時代)から、周教授のご許可をいただいて序文を翻訳してお送りします。同書は主に2014年の雨傘運動後ここ数年間の社会の動きを見つめつつ、同教授が社会に向けて書いたエッセイなどが詰まった一冊ですが、この序文は、新たな運動の真っ最中にある現時点でも香港が置かれている状況、抱えている問題、そして香港人が希求し続ける自由とはなにか、香港社会の価値観などを理解することができる、すばらしい一文です。現在この周教授の原稿を日本語化して刊行すべく準備中です。刊行期が近づいたら、また皆さんにもご報告いたします。どうぞよろしくお願いします。

序:自由への途上

この本は、運命に抗う香港人のために書いたものである。

わたしはこれらの文字によって、香港人に敬意を表しつつ、今の時代の抵抗精神を思想の面から形にすることを試みた。歴史に記録を残すため、この時代を生きる人たちのために叫ぶため、そしてまたわたしの街が今後歩む道を見つけるために。

雨傘運動[*]は、香港の歴史における分水嶺となった。その精神基盤は、「真の普通選挙実施」にあり、「運命に抗い、命令に抵抗する」にあり、「運命を自分で決める」にあった。雨傘運動の洗礼を経て、香港人の主体意識、自主意識、共同体意識はしっかりと根付き、あちこちで芽を出している。これらの意識が我われのアイデンティティを定義し、我われの公共における行動を導き、我われの生きるための想いと結びついている。

[雨傘運動:2014年9月28日から79日間、香港島と九龍半島の主要路に市民が座り込み、封鎖した運動。もともとは、2017年に行われる予定だった行政長官と立法会議員の選出のための普通選挙に対し、中国中央政府の議会である全国人民代表大会常務委員会が一方的に候補者の脚切りや立候補のための条件を設けたことに対しての抗議活動である。]

もっとも深い意味において、我われはもう戻れない。

古い香港への想い、古い政治ルール、古い社会的権威、古い社会運動手法、古い自己理解、どれもが過去のものになってしまった。我われは大変困難な転換期に足を踏み入れているのである。古い勢力が反撃し、新しい力はまだ形になっておらず、改革は停滞して進まず、社会は不安で揺れ動いており、渦の中で暮らす人たちは苦しみや不安や怒りや無力感、さらにはあちこちで起こる亀裂から逃れることができずにいる。その亀裂には他者との間の亀裂のほかに、自分との亀裂も含まれる。

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