【読んでみましたアジア本】自粛生活の窓の外に広がる風景を楽しむために/ケン・リュウ(編)『月の光 現代中国SFアンソロジー』(早川書房)

「SF小説よりも現実は奇なり」を地で行く非常事態下のみなさま、いかがお過ごしですか?

「三密」とか「ソーシャル・ディスタンシング」(「ディスタンス」は間違い)とか「医療崩壊」とか、もう聞き飽きたーーーーーー!という人が増えている。一応、頭では理解して通知を守り、それなりに運動もしているけれど、はっきり言って自粛生活に耐えきれなくなっている人は多いはず。

そこにゴールデンウィークと言われても、実際のところゴールデンウィークって一体なんだったんだっけ? ただただ休みが続くこと? 休みが続いても何もできないくらいなら、ゴールデンウィークから出勤したい、と思っている人もいたりして?

緊急事態宣言発令以降、おとなしくしてきた人たちがだれ始めるのも時間の問題という気がする。その最大の問題は、「緊急事態」はメディアや人の口から伝わるばかりで、自らそれを身近に感じることができないからではないか。

もちろん、事態からすると、自身の周りに感染者や重篤者が出ていないということは、大変喜ばしいことなのだが、その一方で現実感がない。メディアが繰り返し繰り返し伝え、実際に自分が自粛生活を強いられているそれと、現実が乖離しているというのは、もうこれ、次の展開に酔ってはスリラーかサスペンス、はたまたSFの世界を生きているってことになる。

だから、というわけではありませんが、今月の「読んでみましたアジア本」は、中華系米国人SF作家ケン・リュウが編集した現代中国のSFアンソロジー『月の光』を手にとった。

もう、日本語における中国SFはケン・リュウなしには語れないというほどまでに、ほぼケン・リュウオンリー頼みとなっている。本書は彼の米国翻訳出版本を日本語に翻訳したもの。つまり、中国→米国→日本という、とにかく面倒くさいルートを経てやっと日本にたどり着いたわけ。

あ、そういえば、新型コロナウイルスもこれとまったく同じルートだったから、結局日本は中国を見るにもアメリカ頼り。その理由はさまざまなれど考えさせられるところがある。

●「ベスト選集」ではない、雑多で幅広いアンソロジー

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