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【ぶんぶくちゃいな】中国完全監視体制:少年はいかにして姿を消したのか

今年1月初めに、中国のメディアである15歳の少年の失踪事件が大きく取り上げられた。

少年の名前は胡キン宇、「キン」の文字は「森」の形に「金」が3つ並び、そこから想像できるとおり「豊かで栄えるさま」を意味する。中国ではよく人名で使われる漢字で、生まれた子どもが豊かになれるようにという親の思いが伝わってくる。

胡少年は江西省上饒市郊外にある鉛山県の農村に生まれ育ち(中国では「県」は「市」の下にある行政区分)、昨年9月から同県の中心部にある寄宿制の私立高校に進学したばかりだった。父親は農村で配送の仕事をしており、母親は遠く福建省で家事手伝いの出稼ぎに出ていた。15歳年上の兄も福建省で働いている。

胡少年が進んだ高校の学費は月8000元(約15万円)、寄宿費用が別途600元(約1万円)かかる。ただ、鉛山県ではトップクラスの進学校として知られるこの私立高校では優秀な学生を集めるために、高校入学試験に相当する全国統一試験の得点によって授業料の減免を実施しており、胡少年は月あたり学費から1500元(約2万9000円)が差し引かれていたそうだ。

一方、両親の収入は合わせて月8000元ほど。それでも両親が月収をほぼすべてなげうっても息子を進学させたのは、もちろん、息子の将来を思ってのことだったろう。もともと鉛山県のトップ公立校への進学も太鼓判を押されるほど成績優秀だったのだが、受験時に体調を崩してしまい、得点がその公立校入学点数を下回ってしまったため、次点の私立高校に進むことになった。

それでも家族は彼を支えてくれていた。彼が姿を消す直前には、「授業がよく聞き取れないから録音して聞き直したい」という彼のために、兄が小型ICレコーダーを買って彼の元に送り届けてくれたという。家族のだれもが彼に期待し、その将来を支えていたことがよく分かる。

その彼が昨年10月14日の夜、学校の寮から姿を消した。学校の各所に取り付けられた閉回路カメラには、その日の昼間に寮の中や外にあるバスケットコートを歩いていた彼の姿が残っていたが、午後6時前に夕食を終えた後の彼の姿は一切捉えられておらず、そのまま夜11時過ぎに姿がないことが確認された。

翌朝になっても彼は戻らず、連絡を受けて学校に駆けつけた家族が警察に通報。その後数日に渡って、家族や親族、警察、学校関係者、付近の人々による大捜索が始まった。学校内にも、また街中に取り付けられた閉回路カメラにも姿がなかったことから、学校の裏に広がる山を集中的に捜索したものの、彼の足取りはまったくつかめないままだった。

●ICレコーダーだけを手に消えた少年

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