ケン・リュウ「紙の動物園」:サイエンスと中華エッセンスが詰まった新たな時代のショートショート【読んでみました中国本】

子供の頃に親しんでいた本のジャンルに、「ショートショート」があった。昨今あまり耳にしなくなったジャンルだけれど、当時の日本のショートショートの代表作家といえば、星新一だった。

今、改めてアマゾンにある星新一の著者ページを開いてみたら、そこに並んでいるタイトルのほとんどに見覚えがある。さすがに詳細までは覚えていないが、わたしが以前、日本で暮らしていた頃まで(〜1987年)に出版された星の著作は全部読んでいたと思う。

ショートショートの魅力は、まずなんといってもその読みやすさだ。1本の作品がエッセイレベルの長さ(もっと短いものも)なので大変読みやすい。

次に、その短さの中に「おっ」と思うようなひねりが隠されていて、たびたびウラをかかれる。一冊の文庫本にそんな話がたくさん詰まっているのだから、脳の刺激にはもってこいだ。

三番目は、特に星の作品にはほぼ必ずと言っていいほど、「サイエンス」や「ミステリ」が隠れていた。わたしはもともとミステリ好きだということも星の作品に惹かれた理由かもしれない。だが、長編のミステリに比べて、星の作品はひたひた、あるいはぺとぺとといった足音を響かせなたら静かに進行する。そしてそれが数ページで切れ味良く結末を迎える。そこに面白さがあった。

サイエンスについては、わたしはそれほど関心があったわけではなかったが、星の作品と手塚治虫のまんが作品に通じるものを感じていた。それは何かというと、「生身の感じがする科学」とでもいおうか。作品によっては邪悪なサイエンスも登場するのだが、ショートショートやまんがという手法のせいか、どこか生暖かさがあるような気がしていた。

なによりも手塚の作品も星の作品も、読み終わると、底に描かれた「人間味」が残る。壮大な宇宙探検が終わると町工場で動く機械を眺めているような、地に足がついた、そんな読後感が好きだった。

●中国本に横たわる「情念」

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