【ぶんぶくちゃいな】転換期の「双十一」、その先を見据えるアリババ

11月11日。

中国はお祭りの日だ。「11」が2つ並ぶから「双十一」。中国大陸に中華民国が建国されたのが1911年10月10日で「双十節」と呼ばれることにひっかけたようにも感じる(「節」をつけないのは語感からだと思う)が、直接の関連性はない。

中国で「双十一」が注目されるようになったきっかけは南京大学の学生寮だったといわれている。調べてみると、1993年に寮生たちがこの日は「1111」と棒が4本並ぶので、棒を男性器に見立てて「光棍節」と呼び出した。「光」とは「〜だけ」という単独性を強調する言葉で、「棍棒ばかり並ぶ祭日(節)」という意味だ。

それが次第に「独身者の日」とみなされるようになり、男女の差を問わず独身者同士で集まったり、合コンしたりするようになった。だがその間、呼び名はずっと「光棍節」のままだった、女性には棒はないんですけどね(笑)。そして、カップルはカップルでこの日は「光棍」の仲間に入れてもらえないからバレンタインデー状態になったらしい。

主に未婚者が多い20代の若者を中心とした「お祭り」に、電子商取引サイト「淘宝 Taobao」(以下、「タオバオ」)を運営するアリババがそんなイベントの一つとして「お買い物カーニバル」を打ち出したのが2009年。日頃から「タオバオ」に出店する全店舗に呼びかけて、この日を「全面ディスカウントデー」にしてしまったのである。

(注:タオバオはプラットホームで、そこに個人や企業が自分の店舗を開くことができるようになっている。日本のネットショッピングで言えばタオバオは楽天のようなもの。リアルな商業形態でいえば、タオバオはネット上のショッピングモールで、そこに個人店主が開いた店舗やユニクロなどが店を開いていると想像してもらえば良い。)

ネットといえば若者、若者といえば消費。2009年といえば、ちょうど「光棍節」祭りに親しんだ若者たちがすでに社会に出てそれなりに小金を持った中産階級層を形成し、消費を楽しんでいた頃だ。それが大当たりした。

もともと中国は買い物が大変不便だった。情報技術が高まるに連れ、ネットで目にした商品が欲しくても自分の暮らす地域には売っていない。いや、売っている店がたとえあったとしても、その店がどこにあるのかわからない。そもそも首都の北京ですら住んでいる場所から市内のある特定の場所に行こうとすると1日仕事になるくらい、広大なのだ。

そんな人々の欲求の高まりにうまくマッチしたのがオンラインショップで、またオンラインショップで顧客が騙されない、あるいはショップが顧客に持ち逃げされないための支払いサービス「支付宝 Alipay」(以下、「アリペイ」)を備え付けたタオバオだった。2009年の時点ではすでに「欲しいものはまずタオバオで探せ」というムードが出来上がっており、そんなショップが全面的なディスカウントセールを打つというのだから、人々が飛びつかないわけがなかった。

ただ「光棍節」だからといってお買い物カーニバルに参加できるのは独身者には限らない。じゃあ、「独身者の日」という名前はおかしいだろうということで「双十一」という呼び名が使われ始め、2011年にはアリババが「双十一」を商標として登録してしまった。

今では「双十一」という言葉は使えないものの、11月11日に大セールを展開するのはタオバオだけではない。「騰訊 Tencent」(以下、テンセント)が株主になっている「京東 JD.com」(以下、JDコム)、中国版アマゾン「亜麻遜」、ネットポータル「網易 NetEase」(以下、網易)が展開する「網易考拉」などほとんどすべての電子商取引サイトがこの日大安売りを展開して、人々をひきつけている。

だからこそ、11月11日は大ショッピングデーなのだ。

このショッピングデーが浸透し始めると同時に、「光棍節」という言葉を使う人も激減した。11月11日は中国人にとってすでに「双十一」であり、そしてこの言葉が使われれば使われるほど、これを登録商標として手に入れたアリババに注目が集まる、そんな流れが出来上がってしまっている。

●アリババが全身全霊で支える「双十一」

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