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【竜とそばかすの姫】サマーウォーズから12年、リアルさマシマシになった"近未来の仮想世界"(ネタバレ感想)

注意:タイトルにも書いてるように大量にネタバレ有です。観た人向け。


いやー、マジでリアルだった。そして面白かった。
サマーウォーズが「いつか起こりそうな仮想世界上の話」だとすると、今作は「もう既に世界のどこかで起きていそうな話」という感じでした。


現実味その1:仮想世界「U」

映画を観て真っ先に感じたのがこれです。

「U」のアプリをタップして起動、
Bluetoothイヤホンのような生体デバイスを装着、
視覚から始まり五感をジャックし、VRの世界へと入っていく。
なんて理解しやすいシステムでしょう。

もちろん、現実にはあんなイヤホンみたいなのをつけたからってVRは見られないし、身体の動きがリンクするシステムもありません。
が、それぞれのツール(アプリ、フルワイヤレスイヤホン)は今も存在するし、使い慣れているからこそ「理解」はしやすかったな、と感じました。

サマーウォーズの頃はVRもなかったし、フルワイヤレスイヤホンはおろかBluetoothという技術もない。
スマホはギリギリ出始めてたけど持ってる人は希少でした。
そんな時代のいう『仮想世界』なんてまだまだ未来の話だったわけです。

DSやガラケーからあんな壮大なシステムにアクセスするにはスペックはたぶん足りないし、そんなのでメールからナビから電話からを全てつなぐ一大システムをみんなが扱っている、というのは、面白くはあるけどどうしても夢物語という感が拭えませんでした。

…が、今となってはVRという没入技術も一般的に普及しており、SNSも全盛なわけで、仮想世界のつくり方・仮想世界への没入方法がどんどん固まりつつあるというのが、今回の映画にも現れていたのではないかと思います。


また、そのような仮想世界への入り方に加えて、仕様面でのリアリティもOZに比べて増していましたね。

OZはネットワークシステムの中枢(現実の仕事の権限がアカウントに割り付けられてるとか)みたいなドデカイ概念でもあり、途中観ていて「これどういう仕様?」みたいな疑問もいくつか湧いてきましたが、Uはあくまで「もう一人の自分を生きるため」のツール。

現実の職業やら個人情報とは隔離されています。
いわばSNSの延長。
TwitterとYouTubeとTikTokとが仮想世界で合体したらこういうことが出来そうだな、と想像しやすい「U」の仕様でした。


サマーウォーズの公開から早12年、
ガラケー所持率99%はスマホ所持率99%に変わり、
携帯ゲーム機はテレビゲームとの兼用機に変わり、
処理速度上げまくるのに大学納品用のスパコンが必要だったのが、女子高生のゲーミングPCでできるようになり(個人的にここが一番好き)

特に最近はコロナ禍のあおりもあって、オンラインシステムの発展は凄まじさを増しているとひしひしと感じます。
そんな中、既にある技術をとっかかりにして生み出された「U」という新たな仮想世界は、自分にとっては非常に現実味を持った近未来に映りましたし、そのおかげで物語の世界により入り込むことができました。



現実味その2:音楽シーンのありかた

本作の「地味な女子高生だったすずが、突如ベルとして一躍有名になる」というストーリー。
これぞまさに「2021年の音楽シーンあるある」といえます。

音楽配信アプリが全盛を迎えている昨今、突然現れたアーティストがめちゃくちゃバズるという流れはもはや珍しくありません。
「香水」が社会的ブームを巻き起こした瑛太がその一例でしょう。

そして顔出ししなければ活動がままならなかった音楽活動も、配信アプリの登場やYouTubeの力によってその限りではなくなってきました。
事実、俗に「夜行性」とよばれるファンを生み出した「ずっと真夜中でいいのに。」「ヨルシカ」をはじめに、顔出しをしないアーティストは今では全く珍しくありません。

そしてアーティストの年齢も最近では随分幅広く、高校生が作った・歌った曲というのも巷に溢れています。
そのような環境の昨今、今作のすず(ベル)のように、超有名な歌手が実は地味な女子高生で…というのは十分にあり得る話といえるでしょう。

そして一躍大人気歌手となったベルですが、登場した直後は『コメントの半分は批判』でした。
友人のヒロちゃんが「半分の人には賞賛されてるってこと!」「批判があるってことは見られてる証拠!」(セリフ意訳)などの励ましの言葉をすずに投げかけるシーンがありますが、
あれは細田監督からの、すずのようにインターネットで創作活動を行う人たちへのエールだったのでしょうね。



現実味その3:リモート入り混じる人間関係

「現代の人間関係のありかた」。
本作のテーマと関わってくるところかと思います。

人間関係のリアリティ、自分が最もそれを強く感じたのが、すずが東京行きの(?)バスに乗りながら父親にLINEを送っているシーン。
母親を亡くして以後、すずは父親と疎遠な日々を送ってきており、「夕飯は?」「何かあったか?」と父が聞いても毎回「いらない」「別に」のみ。そんなすずが、LINEを通じて初めて自分の気持ちを吐露します。

面と向かってはそっけない態度を(自分では治したいと思いながらも)とってしまうけど、文字としてなら素直な気持ちがちょっと伝えやすい。
これこそLINEやSNSが発達してきたからこそわかる「現代のあるある」だなと感じました。

まあ、伝えやすいがために、作中のYahoo!ニュースらしきコメントは炎上していたりするわけですが…まあこれもあるあるですね……(笑)


そして本作のクライマックスである、竜のオリジンである子供の兄弟を実際に助けにいくというシーン。
サマーウォーズでは、ピンチになった陣内家をドイツ人の子供(を含めた全世界の人々)が助けに来ましたが、今回はその逆。
助けを求める兄弟を主人公のすずが助けに向かいます。

そしてサマーウォーズではあくまで「OZ内での助け合い」だったのに対し、今作はUで知った相手を「実際に」助けに向かう。
もしかすると、これもこの12年で変化した"近未来"の人間関係のありかたなのではないかなと思います。

サマーウォーズが上映された当時、「この先インターネットやツールが発達すると、全てがオンラインで完結するようになる」という予測が少なからずあったように記憶しています。
遠くにいる人とはオンラインで繋がれるようになり、それゆえに実際に時間をかけて会いに行くことはなくなるのではないか、と。

果たして実際にそうなるのか?
その答えは、今の生活を振り返ってみれば明らかでしょう。

某アレコレの事情もあり、さまざまなことをオンラインで行うよう推奨されている昨今ですら、面と向かって友人と会ったり、出張をすることがなくなることはありません。
「オンラインでもいいけど、やっぱり実際に会いたいよね」というのが本意なわけです。

細田監督の真意は分かりませんが、竜のオリジンに会いに行くシーンを入れたのは、そういった「今時点での人間関係のありかた」を描きたかったからなのかな、と感じました。



まとめ

バーチャルな世界を全面に押し出しているのはサマーウォーズと同じでありながら、その節々に現代のあるあるが散りばめられた今作。

いうなればフィクションでありながらノンフィクションでもあるような、不思議な感覚の味わえる作品だったと思います。

まだ公開間もない本作。今後どのような感想を得て、賛と否のどちらが優勢となっていくのか、自分にはわかりません。
が、12年の時を経て2021年風にリアレンジされた仮想世界やそれを取り巻く数々の現実味=ノンフィクションぽさは、個人的には思うところも多く非常に面白かったです。

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おわり。

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