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3月のオレンジ

今年の春休みもバイト三昧。

昼間は飲食店のホールで、それが終わったら髪についた匂いを消して、服も着替えて、塾講師のバイトに向かう。そしてくたくたになりながら家に帰って、また翌日飲食店のバイトへ。
こんなに働いているのに、すべて家賃、光熱費と携帯代に消えていく。
それが続くと思っていた。

休校に伴い塾もしばらく休塾、と言っているのに、月に一度の会議は強行。教育業とは言えど結局は会社であるがゆえ、人の命よりも利益優先だ。
これが資本主義国か、と悲観するも、空いた1週間をこれを機に実家に帰ってみることにした。

新宿駅で裏が黒くて、表が水色でつるつるしている切符を2枚通した。
この瞬間は緊張する。初めて2枚まとめて通したとき、本当に2枚も通すの?と思ったけれど、改札機は賢いから、一気に通されたところでパニックにはならない。

改札内は地下だから暗くて、蛍光灯の光とオレンジやら黄色、水色の案内だけが綺麗だった。
どこ方面とか書かれているけれど、東京の地図は頭に入っていない。
スマホの乗り換え案内で新宿から東京を検索したら田舎者だと笑われるだろう。
わたしが乗るべきなのはオレンジ色で案内されていた路線だった。

頭上に重い金属音。電車がいる音がした。初めてこの音を体験したときは、落ちてくるのではないかと思ったけれど、その感覚はまだ消えない。

ホームに出ると、手を繋いで電車に乗り込む恋人が、それはそれは眩い太陽のもとに晒されていた。
陽はオレンジにふさわしい暖かさだが、風はまだ少し冬の性格、いかにも春という気候。

世間では休校とか、買い占めが起こっているとか、パンデミックが起こっている気がするのに、外に出てみると、案外みんな死んでいない。

オレンジ色が特徴の車両は、田舎者でもよく耳にした路線だし、特快とまで書かれているので人の大群かと思った車内は、案外空いていて、キャリーケースをひいていたわたしは席に座ることができた。

十分に警戒しなければならないのは重々承知だが、案外心配する必要ないのかも、と思ってしまった。

家賃を払うために地道にためています。