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昔の恋のエピソード③【キス】

僕とまいが働いていた職場は
裁断場とミシン場で建屋が異なり、
裁断場の最上階に男子寮があり
ミシン場の最上階が女子寮と
なっている。
僕が済む部屋は3階の窓際、
カーテンを開けるとミシン場がある
建屋が見えて4階が女子寮だ。

日曜日の朝、カーテンを開けると
まいが洗濯物を干していた。
今日も可愛いな…そんなことを
思いながら見とれていたら
まいがこちらに気付いた。
僕が手を振るとまいは周りを
キョロキョロ見渡したあと
胸元で小さく手を振ってくれた。
建物の距離はあるものの
繋がっている気がした。

ある日、僕は唐突にまいを
僕の部屋でのお泊まりに誘ってみた。
純粋にゆっくりふたりだけの
時間を過ごしてみたいと
思ったからだ。
デートでは周りの目線もあって
なかなか落ち着いていられない。
カラオケに行ったら歌わなくては
いけないと思ってしまう。
残された選択肢は
自分の部屋しか思いつかなかった。
そのために部屋の絨毯も買い替え
ラベンダーの香りのする陶器の
芳香剤も置いた。
ちゃんと女子寮の先輩には了解をとった。
やましい気持ちは無かったし
先輩も僕を信じてくれた。
そしてまいが来てくれた。
僕の部屋にまいがいる…
それだけで気持ちが
満たされていた。
一緒にドラマを観ていた。
『銀狼怪奇ファイル』という
日テレのドラマ。
オープニングとエンディングの
曲もこれを機に覚えた。
ドラマも見終わりそろそろ寝ようと
思ったら、その時初めて
布団がひとつしかないことに
気付いた。
「今からでも寮に戻る?」
心にもないことを言った。
「もう玄関施錠されてるし…」
とはいえまだキスもしていない
僕たちがひとつの布団で寝るなんて
考えられなかった。
急に心臓の鼓動が激しくなる。
そしてまいに聞いてみた。
「この布団で一緒に寝る?」
まいはうつむいたまま
小さくうなずいた。
照明の紐を引くと小さなオレンジ色の
電球が室内を柔らかく照らしてた。
僕とまいはお互い仰向けになって
布団に入った。
緊張が僕の全身を駆け巡った。
まいに触れたら嫌がられると
思って体の半分は布団から
はみ出していた。
告白されたあの日の
相合傘に似ていた。
照明を消してどれくらい
経っただろうか。
まいのことが気になる。
顔が見えない…
狭くないかな…
眠れているかな…
気になって眠れたものじゃない。
少しして姿勢を変えようと
手を動かしたとき、
まいの手に触れた。
「ごめん。」
思わず口にしたとき
まいが手を握ってくれた。
その時ようやく僕は
まいの顔を見た。
まいもこっちを見ていた。
小さな目がとてもキラキラ
していた。
僕はその目に吸い込まれるように
顔を近づけてそっと唇を重ねた。
キスの経験があまり無かった僕は
そこからどうしたら良いかが
わからなかった。
でもドラマではこうやっていたよな
的なイメージで舌を出してみた。
まいは最初ビクッとしたが
僕に合わせようと頑張ったのか
舌をまっすぐ前に突き出してきた。
まいがとても可愛いと思った。
しばらくキスは続いたが、
そうなってくると次の欲が
出てきてしまった。
いけないことだと思いながらも
まいの体を求めてしまった。
僕の手がまいのパジャマを掴んだ
そのとき…
「怖いです…」
僕はすぐパジャマを離した。
高校1年生の女の子が男の部屋で
ひとりでいる状況が怖くない
わけがないのだ。
きっと僕のために我慢して
来てくれたんだ。
「大丈夫やよ、しないから。」
そう言って僕はまいの頭を
抱き寄せた。
安心したのか、
まいはそのまま眠りについた。
僕はまいの寝顔を見つめながら
夜が明けるのを待ち続けた。

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