見出し画像

昔の恋のエピソード①【告白】

「今日は寒いね。」
普段話しかけてくることが無い人が
僕に声をかけてきた。
「うん、寒いね。」
と言葉を返した。
何か用でもあるのかな?と待っていると
「今度カラオケに行きませんか?」
と急なお誘いを受けた。
「え?僕と?急にどうしたの?」
女の子からカラオケに誘われるなんて
滅多に無かった僕は流石に慌てた。
「友達に人を集めて欲しいって…」
ああ、僕と行きたいんじゃ
無かったんだと少しがっかりしながらも
この子前から可愛いなって思っていた
からどうせ暇だし行くことにした。
待ち合わせの時間にカラオケ店に
到着した時、誘ってくれた人がいた。
「あれ?まだひとり?」
周りを見渡してもどこにも
人の気配は無かった。
「みんな用ができて来れないって…」
うつむき加減で僕にそう言った。
「本当?困ったね…」
と言いながらちょっと嬉しくもあった。
「帰りましょうか?」
と手を擦りながら僕に尋ねてきた。
…帰りたくないな。
「せっかく来たんだし、何か歌っていこ。」
そしてふたりで歌を歌いあった。
その時歌ってくれた歌を覚えている。
・華原朋美 I'm proud
・岡本真夜 Forever
どちらも聴いたこと無かった。
でも歌ってる姿が印象的だった。
高校1年生の女の子が
両手でぎゅっとマイクを握り
モニターで歌詞を追っていた姿に
僕は胸がいっぱいだった。
カラオケの時間が終わり外に出ると
空から大粒の雪が降っていた。
雪が降る予報だったけど傘は
要らないだろうなと手ぶらで
きた僕にその子が、
「もし良かったら一緒に入りますか?」
と傘を広げてそばに来た。
流石に付き合ってもいない人と
相合傘は…と思ったけど、
こういう時は断るのも良くないと
思い傘の中に入った。
カラオケでは近づいては変に
思われると思って対面側に
座っていたというのに
急な距離の縮まり方に心臓の鼓動が
聞こえてきそうなのを必死で押えた。
しばらく歩くと路面電車の駅がある。
でも住んでる場所まで橋を超えたら
すぐなのでそこまで歩くことにした。
橋の手前の坂を歩くふたり。
相合傘してる自分に緊張していた。
気がつけば僕の左半分に
雪が積もっていた。
「先輩、雪積もってますよ。」
入りきれなかった僕に気を使ってか
慌てて僕の肩の雪を払い除けてくれた。
申し訳ないなって思っていたら
その子の動きが止まった。
ちょうど橋の真ん中だった。
その子は俯いたまま。
「どうしたの?寒い?」
と尋ねた瞬間、僕の手を握ってきた。
手が震えていた。
あれ?違う、僕が震えていたのかな?
そして、
「つ…付き合ってくれませんか?」
突然の告白だった。
その子はまだ俯いたまま。
冷たい手の温度は変わらないけど
握る力はあのマイクを握っていた時と
同じ感じだった。
あの時の歌は僕に向けてくれたもの
だったんだなって思った。
「ありがとう。」
そう言って僕は握られた手を握り返して
その子を引き寄せて抱きしめた。
お互いの鼓動が聞こえるようだった。
何分間ハグしたのだろう。
気づいたらその子の髪の毛に
雪が積もっていた。
傘を下ろしてしまっていたのだ。
慌てて前髪に着いた雪を払って
あげたらその子の顔は
涙ととびっきりの笑顔で溢れていた。
そして、雪の勢いが増す街中を
僕たちは身を寄せあって帰った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?