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イネとウシの戦い

植物は食虫植物など特別な場合を除いてほとんどが食べられる立場の生物だ。そんな植物にとって最も過酷な戦場の一つが草原である。例えば森林では多くの草木が複雑に生い茂り、全ての植物が食べ尽くされるということはほとんどない。しかし草原では植物が隠れる場所がなく、生えている量も限られている。そこに草食植物たちがやって来て競うように食べあさるため全滅することも珍しくない。

そんな草原に生える植物たちはなんとか草食動物に食べられまいと進化を重ねてきた。植物がよくとる作戦の一つに毒を持つというものがあるが、毒を作るのにもそれなりの栄養分が必要でそれを痩せた草原で行うのは難しい。そこでイネ科植物がとった作戦が葉の性質を変化させるというものだった。イネ科植物はガラスの材料にも使われるケイ素という固い物質を葉に蓄え、更に繊維質を多くすることで消化を困難にした。また、葉に存在するタンパク質を最小限にして、栄養分を少なくし、餌としての魅力をないものにした。思い返してみるとイネの種子は毎日食べても、葉っぱは食べた事も食べようと思った事もない。しかし、他に食べるものがある人とは違って草食動物は草原の植物が食べられなくなったら生きてはいけない。そこで草食動物はイネ科植物を消化吸収するための様々な仕組みを発達させてきた。例えばウシの仲間は胃を4つもつようになった。1つ目の胃は容積が大きく、食べた草を貯蔵できるようになっている。ここでバクテリアや微生物を働かせる事で消化しにくい草を分解する。まるで人が大豆や米を発酵させて栄養価のある味噌や納豆を作るように、ウシは胃の中で栄養のある発酵食品を作り出しているのだ。2つ目の胃では消化物をもう一度、口の中に戻して咀嚼する反芻(はんすう)という行動を行う。3つ目の胃では食べ物の量を調整して、多ければ1番目や2番目の胃に戻す。4番目の胃は人間の胃と同じように消化液が出て微生物を分解する。このようにイネ科植物から栄養を摂ろうとすれば時間をかけて大量の草を食べて、4つもの胃を使わなければならない。この発達した内臓を持つためにウシは現在のような容積の大きな体になったと言われている。イネ科植物にとっては食べられにくくするという点では成功しているが、結局たくさん食べられているので勝負に勝って戦いに負けているような状況だろうか...

参考文献:稲垣栄洋,「面白くて眠れなくなる植物学」,PHP研究所,(2016)

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