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私たちの祖先とネアンデルタール人は交配していたという話

今日は2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスヴァンテ・ペーボという人物を取り上げたいと思います。

ペーボはスウェーデン生まれの生物学者で、現在は絶滅してしまったネアンデルタール人の核DNA配列の特定や、それまで発見されていなかった古代人類であるデニソワ人の存在を明らかにしました。
また驚くべきことに、現世人類(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人が過去に交配しており、ネアンデルタール人のDNAの一部は我々に受け継がれていることを、ベーポは示したのです。つまり、我々の祖先とネアンデルタール人は性交渉をして、子供を残していたのです。

ペーボは古代DNAの解読という競争が激しい分野で、驚くほど早く、多くの人に認められる形で結果を出してきました。

ペーボが優れた業績を残せた理由

・新しいテクノロジーを取り入れ続けた

ペーボは、DNA片を増幅するためのPCR法や現在では次世代シーケンシングと呼ばれ、それ以前のサンガー法より、はるかに早く容易にDNA配列を特定できるパイロシーケンス法をいち早く取り入れました。
従来の非効率な方法に拘った人たち、例えばDNA片をベクターに運ばせ、バクテリアの中でDNA片の複製・増幅をしていた研究者はペーボに先を越されることになったのです。

・小さく始めた

ペーボはいきなり、ネアンデルタール人の核DNA配列の特定に取り組んだわけではありません。オーブンで熱して乾燥させた子牛のレバーから始まり、ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAの解析、古代人類の化石よりも希少価値が低い動物の化石(例えばホラアナグマの化石)の核DNA配列の特定に取り組みました。そこで実績とノウハウを積み重ね、ついにはネアンデルタール人の核DNA配列を特定したのです。

ミトコンドリDNAと核DNAの違い

・地道で面倒臭い作業を厭わなかった

DNA片を増幅するためのPCR法で問題となるのが、感受性の高さです。どういうことかというと、現代人のDNAが埃や唾液を介してDNA抽出液に紛れ込むと、古代の細胞に由来するほんのわずかなDNAを、現代人のDNAが圧倒してしまうのです。
これを防ぐために、ペーボは専用のクリーンルームを作り、神経質とも言えるほどのルールを定めました。
また、そうして出てきた結果も直ぐには信用せず、複数のアプローチを使って汚染率を調べ、許容範囲内の数値に収まっていることを確認しました。

最後に

ペーボらの業績は、アフリカ単一起源説、現代人の祖先は20万年から10万年前にアフリカで誕生し、世界中に広がったという結果を支持しています。そして、世界中に広がる前に、中東で現代人の祖先とネアンデルタール人が交配していたという事実を明らかにしました。つまり、我々の中にネアンデルタール人のDNAが生きているのです。
ペーボは現在、OIST(沖縄科学技術大学院大学)でadjunct professorとして勤務しています。国内外から優れた研究者を集め、世界レベルの研究拠点となっているOISTは、今後も人気が高まり続けるでしょう。

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