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オンライン診療のホンネ 各論編①   医者目線

さて、前回公開しましたオンライン診療のホンネでは、そもそもの定義についてお話しました。続いての各論編では、具体的なシステムについて概説しながら、その意義について述べていきたいと思います。まずは、医療の提供者側から見たオンライン診療です。

オンライン診療の仕組み

オンライン診療とは、主にwebカメラなどの顔や表情が観察できるような情報通信機器を用いて、診察を行うことです。簡単に言うと、今流行りのZOOMのような動画・音声システムを使って診療することです。とはいえ、使用できるデバイスには制限があるので、参入を検討される方は後述する厚生労働省HPの資料を参照ください。診察するにあたり、構築すべき体制(通信機器、決済方法、本人確認方法など)が示されています。

オンライン診療を始める医師って?

患者診療に携わる医師は大きく分けて開業医と勤務医に別れると思います。そして、今回のオンライン診療大幅解禁のきっかけになった新型コロナ大流行において、勤務医は直接診療する機会が多い一方で、開業医は偶発的に来院する方を診る程度におさまっています。これは、防護具の準備・使用の問題やその担う機能の違いなど、様々な理由があります。それぞれの立場で、オンライン診療を始めるきっかけをシミュレーションしてみましょう(独断と偏見が入りますのでご容赦ください)。

開業医の場合

開業医の先生方、特に内科系の方々は、定期通院の方以外にどういう患者さんを診ているかというと、発熱や腹痛、咳といった、非常にありふれた「風邪症状」を主訴とする人たちです。これまで、そういった方々は初診で風邪薬を処方しておしまい、という患者さんが大半ですので、オンライン診療の対象に含まれず、オンライン診療を導入するきっかけが生まれませんでした。しかし、これまで開業医の先生がたくさん診ていた「風邪症状」はまさに新型コロナの症状と合致します。多くのクリニックの先生方は新型コロナの診療に耐えうるリソース(人的、物的、経済的)を有していないと思います。その状況下で、この新型コロナ渦の中でどういった社会貢献ができるか、頭を悩ませることでしょう。そこで、それぞれの問診その他の長年培ってきた診療能力を生かして、初診でも実際に患者さんと対面せず診療することが解禁されたオンライン診療に乗り出そう!となるわけです。そして現在、オンライン診療での初診は処方できる日数を7日間に限っています。これは、新型コロナ疑いの患者さんを初診で診る役割を、開業医の先生方に期待しているのかな?と私は考えているのですが、皆さんどうでしょう。

勤務医の場合

病院というところは、開業医が開設している診療所よりも、より専門性の高い機能を備えたところです。こういったところが診療をする患者さんたちというのは、主に検査を必要としたり、専門的知識を持った医師が対応しなければならない重篤な疾患を持つ患者さんたちです。そこにオンライン診療を導入する場合には、多くは通院自体に危険が伴う(今の新型コロナの蔓延状況がそうですね)場合や、通院することが困難である(呼吸が苦しいので移動が大変、もしくは遠方からの通院など)ような患者さんたちが対象となります。いきなり初診で検査もせずに薬だけもらって帰るような患者さんは、ごく一部です。前号に記した通り、大幅緩和される以前から、定期通院している患者さんたちを対象にしたオンライン診療は許可されていました。実際に、意識高く取り組んでいるところはオンライン診療を用いて地域医療に貢献しているところもたくさんあります。とはいえ、そのシステム導入はあまり芳しいものではありませんでした。それはなぜでしょう?

オンライン診療が広まらなかったわけ

ここにあるデータがあります。これによると、平成30年度中にオンライン診療を届出ている病院/診療所はそれぞれ65/905箇所であり、オンライン診療料もしくはオンライン診療管理料を算定している回数は月あたりそれぞれ100件前後/50件前後なのです。緩徐に増加傾向にはありますが、届出している数に比して算定している件数が非常に少ないのです。なぜでしょう?

医療も結局は需要と供給のバランスです。供給が生まれないのは、需要=患者さんが必要としていないか、供給体制=病院の準備が足りないか、のどちらかですよね。それぞれ分析していきましょう。

まず需要=患者さんの要因です。医療を必要とする人というのは主に高齢者が多いわけで、私見を述べると、そういった方々はよほどのことがなければICTを用いてまで病院受診をしようとは思いません。しかも日本は世界でも類を見ない程に医療アクセスに恵まれている国で、病院やクリニックの待合室というのは一種の社交場とも化しています。オンライン診療にして社交場にも行かなくなる・・・考えにくいですよね。さらに、オンライン診療を受けようと思うと、新規にアプリをダウンロードしたりお金を払ったりしなければならない。クレジットカードを登録する必要もある。つまり、オンライン診療を受ける必要性に対して患者さん側のハードルが高すぎるのです。

続いて供給=病院やクリニック側の要因です。オンライン診療で得られる診療報酬は通常診療よりも低いものです。にもかかわらず、オンライン診療を導入するとなると、オンライン診療システムベンダーが提供するシステムを購入したりといった先行投資が必要です。これが結構高い・・・それに見合ったリターンが得られるのであれば参入も増えるでしょうけれども、前述のように患者側要因もあることからそれほどの伸びは期待できません。しかも、診療クオリティの担保にはノウハウの蓄積が必要です。

こういった両者の事情が相まって、オンライン診療は広まってこなかったのだと思います。

オンライン診療を取り巻く潮目が変わった!

ところが、今般の新型コロナ流行を受けて、オンライン診療を初診まで拡大し、またオンライン診療体制についても大幅な緩和がもたらされました。具体的には、これまで必須とも言えたオンライン診療専用プラットフォームが必須ではなく、電話を利用してもOKとなりました。これにより、病院もクリニックもオンライン診療への金銭的参入障壁が著しく下がりました。患者さんも、わざわざシステムを導入したりしなくても、電話を使って診察を受けることができます。お孫さんとスマホでテレビ電話することができる方ならば、ほぼオンライン診療専用プラットフォームと同じクオリティの診療を受けることができます。これは大きな変化です。私の勤務する病院でも、先行投資が要らないならばオンライン診療を導入しようか、という議論が湧き上がっています。まぁ、まずは新型コロナの混乱が収束することが先決ですけれど・・・

ただし、オンライン診療専用プラットフォームを利用するメリットも存在します。それは、少なくとも病院・クリニック側としては、ワンストップで導入まで持っていけるということです。届出や機器設定、患者さんへの説明資料など、全て手弁当で構築するとなるとそれなりに手間がかかります。お金を払うことでそういった煩わしさから開放されたり、スピード感を持って導入できたりすることは、オンライン診療システムベンダーさんに依頼するメリットのひとつと言えるでしょう。

新規に参入するには?

厚生労働省のHPというのは非常によくできていて、官僚の皆さんのわかりやすいスライドを見れば、何をすべきか全てわかります。


医療機関が電話やオンラインによる診療を行う場合の手順と留意事項

ここを参照すれば、医療機関がオンライン診療参入に際して行うべきことが全て書いてある、と言っても過言ではありません。検討中の方はぜひ参照ください。また、初診でオンライン診療を行った場合には、その内容について調査票を用いた報告義務があることも必ずご承知おきください。

まとめ

さて、医療機関側の視点でオンライン診療について述べてきました。今般のオンライン診療大幅緩和は、あくまで新型コロナ流行を受けた時限措置です。今後のオンライン診療がどうなっていくのか、前述の調査票を用いて再検討されることと思います。患者さんにとって、より良いシステムが構築されていければいいですね。



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