文才畑 #4 波

街の電波が悪い。建物の中に入ると途端に悪い。ドラッグストアのレジ前が一番悪い。これが困る。
「ポイントカードお持ちですか」と言われてアプリを開くんだけど、何も表示されない。会員証バーコードを差し出さないとポイントがもらえないのに。

「それね、電波悪いでしょウチ。一歩下がってみて。そしたら電波くるから」慣れっこですよといった調子でレジのオバチャンに言われるまま、え、そういうモンなん?と思いレジから一歩遠のくと、確かにバーコードが表示された。


わずか一坪のピンポイントジャミング。電波ってそういうタイプのものだっけ。目に見えない波かところ構わず超高速で縦横無尽にかけずりまわっているのを、スマホのアンテナでひょいと捕まえてそれでしまいじゃないのか。露骨に電波に避けられるゾーンが日常に潜んでいるんだなあ。


そういえば、ステルス戦闘機ってのはレーダーからの電波?を特定の一方にまとめて反射することでレーダーに検知されないようになっていると聞いたことがある。
となるやはりあのドラッグストアも同様の技術を駆使している可能性が浮かんでくるわけで、ステルス陳列棚・ステルス蛍光灯・ステルスPOP広告・ステルスパートタイマーといったマツキヨグループが誇る最先端科学が惜しみなく注ぎ込まれた結果、あのような不便なレジ運用がなされていることは想像に難くない。


まあ毎回毎回ポイントのために電波のつかみ取りに参加していると次第に慣れてくるものだ。
レジのおばちゃんがピッピと奏でている間に一歩後ずさってアプリを起動することができるのだが、このこなれ感をはたから見るとなんとも気持ち悪いヤツに見える気がして、3回に1回くらいはわざと説明を聞き、「あ、電波悪いんスネ、りょーかいス。」と定型分を唱えたうえで後ずさるようにはしている。

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