結論に至る過程にこそ価値がある

 プロより明らかに弱いアマチュアに教わるのになぜお金を払うのかという話。湾岸将棋教室は月6回の開催のうち、4回はプロは来ず私一人でお客様と対局を行います。お陰様でどの曜日も大盛況で有り難い状況が現状続いています。

 プロが来る日と来ない日で料金差はあるものの、他の教室に比べれば高い教室ですから他の教室でプロとの対局でいただく料金と遜色ない料金をお客様にはいただいています。ではお客様は何に価値を見出しているのか。

 私が現在思っているのはプロとお客様自身の間を求めているのではということです。これはプロの無意識に「つけこんだ」やり方ですがプロ棋士というのは最善手を探してしまう癖があります。だから教えるときも100点の手を教えがちです。

 私は80点でもいいし、あえて60点の手を指して相手のミスを誘ってその60点の手を120点にするというやり方も否定しないという教え方をします。(これはこちらの意図が伝わって、どういう考え方をしてるかを聞いてじっくりコミュニケーションを取れる人限定です。部分的に切り取られて違う解釈をされても困るので)さらに言えば70点の手しかわからないのでここから先はプロに聞いてくださいも平気で言います。

 実は100点以外にももの凄い価値があります。例えば教わる人が指す手の価値を0だとして、プロが教える手を1だと仮定すると、0.3の手や0.5の手にも意味があるのです。そういうグラデーションを見せることで教わる側はプロが言う完璧な手の理屈はわからないけど、有段者でもわからないのだから大丈夫という安心感につながります。

 さらに言うとプロの「これにて○○良し」というのはあくまでプロレベルであればということです。アマチュアレベルであればプロが捨てた部分でも十二分に使いこなすことができますし、楽しめます。

 私の卑近な例で言うと私がよく使う戦法に「4→3戦法」という戦型があります。(わからない方は下のリンクを参照してください。)

 現在、この戦型は全くと言っていいほど見かけません。居飛車側が指せるという評価が定まったからです。決定的になったのは2015年3月の渡辺二冠対久保九段(当時)のA級順位戦。その結果、アマチュアでも指す人がいなくなりました。

 ところが私にとっては後手番ではエースに近い戦法。なぜかというと役得なことがあったからです。当時有明将棋教室で、戸辺先生と渡辺大夢先生が大盤を使ってお昼休みに雑談をしていました。それがこの将棋を受けての話でした。たぶんものの10分くらいの内容でしたが、私はそれを鮮明に覚えていて、この後どう指せば良いかというのを知ることができました。戸辺先生がその後どこかの席上対局でこの戦法を指して負けたって話もお客様から聞きましたし、あれ以降公式戦では使っていないのでプロ的にはやはりダメなのでしょうが、あくまでこれはプロレベルではという話です。

 この将棋から3年ちょっと経っていますが、結果だけで判断している人はこの渡辺ー久保戦の通りに指しますが、その先を知っているので私レベルでは十分の形勢になります。

 つまりプロが見出した限りなく完全に近い「結果」はプロにとって意味はありますが、アマチュアにはそこに至るまでの「過程」にたくさんのヒントが詰まっているのです。私はその「過程」の部分を惜しみなく伝えますし、プロはプロの技を伝えてくれます。そんな役割分担でうちの教室は成り立っています。。。って最後は宣伝っぽくなりましたね(笑)。

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