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DXっぽい何かで一歩先を行ったハンバーガー屋、惜しくも敗退する

■ ブルースターバーガーがなくなったらしい

ITを駆使した「超スマートモデル」で一時期評判になった(らしい)ブルースターバーガーが完全撤退となった(らしい)。バーガー業界にはあまり詳しくないのだ。ちなみに、お気に入りはバーガーキングである。弱点は、しょっちゅう注文を間違えることだが、それ以外は良いと思う。

さて、そのブルースターバーガーとやらの仕組みを見てみると、なんというか血統の良さげな起業家サークルの優秀な若者みたいな人が、いかにもピッチで述べたりしてそうな、イケてるシステムだ。

まず、注文とか支払いはアプリでやってもらう。店はテイクアウト専門で、指定の時間に指定の受け渡し棚から商品を持っていく、という段取りになっている。以上だ。

すばらしい。

これこそ、正統なIT革命と言っていいだろう。

自分のような、PCは動作速度が命であり、それゆえに極限までインストールするソフトウエアは削減しなければならない、さもなくば、一瞬のラグで強大な敵に殴り殺されるのである、といった、恵まれないIT原始時代で育ったがために、「アプリとは神聖なスマホのリソースを汚し、隙あらば個人情報を丸ごと引っこ抜くような邪悪な存在であるから、バーガーごときでアプリをインストウルするなんてとんでもない」と考えているおじさんであっても、なんかこれはイケてそう、と思わせるシンプルイズベストな魅力がある。

記事でも触れられているが、オーダーのデータが予めアプリで取れるということは、それはキッチンにも連携されるだろうし、購買担当は面前のダッシュボード的な画面を眺めるだけで、居ながらにして、今日ミンチを何キロ注文すればいいかわかる、なんて運用も想像できる。なんなら、そいつもいなくて良さそうだ。面倒な在庫の払出し記録もつけなくていいし、食材をパクる従業員もすぐに目星がつけられるだろう。

店舗のオペレーションを考えても、キャッシュレスだからレジ締めも別に要らないし、材料がなくなったら販売終了なので、在庫の管理も極めて簡単だ。店内飲食がないので、タチの悪い客を追い出す必要もないし、面倒な掃除もしなくていい。便所に立てこもる輩もいない。そして、そもそもITリテラシーの低いやつお断りなので、なんかよくわからないクーポンの画面とかを店員に見せつけて、これ使えると思ったんだけど、みたいなことをごちゃごちゃ言うせいで、やたらにレジを滞留させる奴とかも発生しない。

そんな、一歩先の未来を実装した素晴らしそうな感じであったブルースターバーガー。FCの加盟希望も一時は相当あったらしい。しかし、7月末で惜しまれつつ全店舗閉店となった。現実は非情である。一寸先は闇。理想郷は全て遠いのだ。

■ なんでダメだったのか、わかるようでわからない

色々と記事にはかかれている。まあ、開店しばらくの一過性のブームで、ファストフードなのになぜか長蛇の列、といったところはご愛敬としても、長い目で見て、これが続けられない理由は今一つよくわからない。

パッと誰もが考えることとして、人類がまだ未来に至っていないから、という話はありそうだが、普通に考えると、そういうやつらは一瞬で淘汰されて、気合の入った筋金入りの未来人だけが客として残り、コアなファンに支えられて経営が続けられそうな気もしないでもない。「ウリ」の利便性さえあれば、店舗は多少狭かろうが人通りが少な無かろうが問題ないはずなので、コストはかなり抑えられそうなものだ。

受け渡しの時点で冷めてた、というようなグルメ評も見ないではない。しかし、テイクアウトのバーガーというのはそもそも、多少冷めてから食うのが通常だ。だいたい、安さを売りにしているバーガーにそんなことを言ってはいけない。最低限、マクドナルド程度の味がすれば本当は問題ないはずだ。そんなことを言い出すと、デリバリーなんか全部冷めてるが、別に食えないということはない。そういうものだというだけだ。

逆に提供速度みたいなところに問題があったのではないか、という話もある。これは、非常にありそうな気もする。アプリで注文したのに待つとは何事だ、みたいな話である。

そこがネックなのであれば、2~3人マクドナルドの奴を雇ってきて、やり方をまるパクリすれば、素人考えでは、やりようでなんとでもなったんじゃないかと思う。なにしろ、マクドは注文を受けてからあの速度で商品を提供していて、そのノウハウを知ったクルーは全国に19万人もいるのである。

となると、やっぱ、冷凍パティを使わないで、ファストにフードを提供するところに無理があったのかなあというところはひとつある。マクドより良いものを出すということはベースにあっただろうから、あまり素人がとやかくいうものではないとは思うが、自分が思うにこれは、オーダー方法とか受け渡し方法とかそういう部分に一歩先感がありさえすれば、中身はほぼマクドナルドでよかったんじゃないか、という気はしないでもない。

ちなみに、ブルースターバーガーの運営をしていたのは、素人ではない。牛角西山氏である。氏の知見をもってしてもリカバリーが難しかったということは、このモデルには、何か致命的な欠陥があったのでは、という気がしてくる。この「全くもってうまくいきそう」なビジネスが、早々に手じまいをせざるを得なくなった根本的な原因はなんだったのか、そのあたりは、是非PROの目線から解明されてほしいところだ。

■ 素人が思うフードビジネスにとっての待ち時間とか

少し前に、プライムビデオでみた『ザ・フード』のケンタッキーのくだりにもあったが、人々は待つことが嫌いだ。サンダースは新たな調理器具である圧力なべに賭けて、フライドチキンの調理時間を圧倒的に短縮してみせた。マクドナルド兄弟は、20分待たされることもあったドライブインレストランを待ち時間のないハンバーガーショップに生まれ変わらせることで成功を収めた。ファストフードに待ち時間は(程度問題はあるが)禁物だ。

現実には、マクドナルドやケンタッキーといえども待ち時間は存在する。注文をするレジに並ぶ時間と商品が出てくるのを待つ時間。このうち、一方の前半部分は、案外顧客にとっては楽しい時間だ。今日のオレを満足させる食い物は何か、迷ったり、選んだりする。待ち時間ゼロでレジに通されたりすると、それはそれで戸惑ったりするものだ。他方、出てくるのを待っている時間は、ひたすらイライラする時間だ。イートインであれば席を探したりと色々とすることがあるので、さほど気にはならないが、テイクアウトではこれはまあまあ深刻な問題となる。

最近では昔より待つイメージがあるマクドナルドでも、この待ち時間が一定以上にならないことは重要視されているようだ。数年前、増加を続けるドライブスルーの待ち時間を短縮するために、数百万ドルを投資したという話もある。

待ち時間に関して、注文は予めアプリで、となってくると、顧客の待ち時間としては、商品が出てくるのを待つという最も忌まわしい時間だけが残ることとなる。

「出てくるまでの待ち時間」を正統化する要素のひとつは「出来立て感」である。モバイルオーダーには、「来店した時には既にできている」という理屈では理想っぽいところが、現実には、微妙に「出来立てではない感」という疑念を搔き立てる、という側面があるような気がする。

つまり、出来立てを期待してたのに微妙に冷めてる気がした、みたいなやつだ。自分が思うに、人々はさほど味に敏感ではない。楽しい友人と飲む酒はうまい。運動した後のビールはうまい。全て品質とは無関係なことだ。「出来立て感の有無」みたいなものには、「実際食う時にはどうせ冷めている」という事実とは、全く異なる何かがあるのではないだろうか、ということをひとつ思う。

そういうことを考えると、理想は、来店すると、マクドより待ち時間が短くて、絶妙に出来立て感をそこなわずに商品が提供される、ということになるが、どう考えてもめちゃくちゃ難しい。そもそも、顧客が時間通りに受取りに来るとも限らない。

この問題を根本的に解決しようと思うと、顧客の位置情報みたいなものから調理を開始するタイミングを決定するみたいな、字面だけ正しそうな無茶なDXをするか、いっそのこと、極限まで速いスピードで調理して提供しましょう、みたいなことになる。それができるなら、逆に予めモバイルオーダーをする意味がよくわからなくなってくる。

「待ち時間」を苦痛でなくする伝統的な別のアプローチもある。それは、居心地のいい空間を提供することや、店員との楽しいコミュニケーション、つまり接客サービスを提供することだ。そこまで言いだすと、話はぶち壊しである。

とまあ、近未来バーガーショップの閉店には色々と考えさせられるところがあるというのが、今日の話だ。結論は出るとも出そうとも思っていない。結局なんだかんだいって、イートスペースを設けるに至った、という点は非常に興味深いし、もっと考えてみたいなと思った。全体としては、とても良いトライだったんじゃないかと思う。


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