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「生物学は何に増しても政治学だ」

フェミニストたちは勉強していた。フェミニズムの第二波によって、かつて閉ざされていた研究所の門戸は開き、女性たちは一流大学に足を踏み入れてみずからダーウィンについて学んでいた。彼女たちはフィールドに参入し、雄に対するのと同じような好奇心をもって雌の動物を観察していた。こうして性欲が盛んな雌のサルが発見され、男性の先達のように目をそむけるかわりに、なぜそのような行動をとるのか追求された。女性たちは動物の行動を観察する標準的なテクニックを開発(中略)新たなテクノロジーを駆使して雌の鳥をひそかに観察し、雄の性欲に支配されている犠牲者どころか、手綱を握っていると突き止めた(中略)フトアゴヒゲトカゲの大半は遺伝子によって性決定がされる(中略)ところがこの遺伝子による性決定システムは、過度な暑さによって覆される場合がある(中略)強烈な太陽を浴びると、染色体による性が高温に負け、ZZの雄は雌になるのだ。これら性転換したZZの雌には、雄雌の外見および行動面の特徴が備わっている。通常の二倍ほどの卵を産むいっぽう、行動はより雄に近いのだ。すなわち大胆かつ活動的、体温は高い。こうした遺伝子または性が逆転した雌のトカゲは、より多様な環境圧に新たな方法で対応できる。それが進化のもたらすアドバンテージなのだ(中略)雄が雌から分岐した二番目の性なら、卵子の作り手の進化の痕跡が残っていると考えるのが当然だろう。実際そうなのだ。(※元テキサス大学の動物学および心理学教授のデヴィッド・)クルーズは雄らしさの根源である精巣に、明らかな古代の雌の痕跡があることを発見した(中略)「われわれは精巣にエストロゲンの受容体が多数含まれていることを示す、初の顕微鏡写真を公開しました」根本的に性ステロイドホルモンであるエストロゲンは、雄の精巣と精子が発達するうえでも根源的な役割を果たしていたのだ(中略)「『雌の』性ホルモンは雄においても決定的な役割を果たします。雄はかつて雌だったからです」と、クルーズは繰り返す。つまりクルーズ版の福音書では、イヴがアダムの肋骨から作られたのではなく、その逆ということだ。初めに女性があり、女性が男性の登場をうながした(中略)雄が登場して行ったのは、雌の生殖を手助けすることでした(中略)ヒトのY染色体は百万年につき約十個の遺伝子を失っていて、今では四十五個しか残っていないことがわかりました(中略)一部の著名な遺伝学者たちは(おもに男性だ)、「雄の」性染色体が絶滅への道を歩んでいるという結果をなかなか受け入れられなかった(中略)Y染色体は遺伝物質を失いつつあるのだ。この「おちびさん」の染色体は、文字どおり縮んでいる。※引用者加筆.

「生物学は何に増しても政治学だ」。年寄りの性差別的な白人男性がこしらえた仮説は、年寄りの性差別的な白人政治家に最も受けがいい。地球とそこで暮らすすべてのものたちの未来を守る、より広がりのある社会を築こうと思ったら、生物学的な真実を求めて闘わなくてはいけない(中略)雌のホルモンは、雄より混沌としたものなどではない(中略)次世代の進化生物学者を育てるために使われている教科書は、まだ性淘汰をめぐる時代錯誤な男性の視点に重きを置いている(中略)雌のシャチのEQはおよそ二・七でチンパンジーより高く、仲間の雄を上回っている。雄のシャチは体が大きいのでEQは二・三程度だ。性別による差はダーウィンが主張した雄の知的優位に冷や水を浴びせる(中略)男の研究仲間の一部は、ボノボの社会が女性優位だと認めたがりませんでした(中略)霊長類学者たちはけっして女性ではなかった。「ひとり残らず男です」(中略)それぞれ独学で知識を身につけた女性のインテリたちがダーウィンの著書を読み、雌という種が周辺へ追いやられ、誤解されていることに気づいたのだ。だがこれら初期フェミニストたちの声は、男性中心の科学界からは無視された(中略)あらゆる脊椎動物は根本的にバイセクシャルです(中略)一匹の魚(※シーバス・スズキ)は脳のある部位を刺激されると射精し、別の部分を刺激すると排卵した(中略)魚には既知の雄雌同体の種が五百ほどあり、もっと多いともいえそうだ(中略)研究により、雄から雌への性転換はまず脳で始まり、生殖腺が追いついてすっかり雌になるまで数か月あるいは数年かかることがわかった(中略)研究では精子より大きくエネルギーを要する卵子を交互に作ることで、生殖投資が公平になると考えられている(中略)雌のみの種というパイオニアは性の普遍性という異性愛規範の視点に一石を投じ、遺伝子学と進化生物学に新たな問いの地平を拓いている(中略)雌はときおり近縁種から精子を盗むが、卵子の受精ではなく刺激に使う。いっぽう長い時間のあいだには蓄えていた「盗品の」精子の一部をゲノムに組み込み、多様性を確保したりする(中略)(※科学者シャルル・)ボネはバージンの雌のアブラムシを瓶に入れ、朝四時から夜十時まで三十三日間見守りつづけた。交尾をしていたはずもなかったが雌は九十五匹出産(中略)自然界の性が一律であることを初めて否定し、「処女懐胎」の存在を主張したのだ。※引用者加筆.

ハッピーな気分は、バイアスの影響を強くする↓
フェミニストたちは勉強していた

ダーウィンの男性中心主義的な性の解釈も当時色濃かった男性優越主義によって形成されていたのは想像に難くない(中略)そうした社会的な偏見は近代的な科学の知見によって都合よく増幅されていた(中略)雌たちはヴィクトリア朝の主婦と同じくらい、疎外され、誤解にさらされていた。おそらくより驚きに値し、かつ有害なのは、その性差別的な「染み」を科学から洗い落とすのがどれほど難しく、その染みがどれほど広範囲に及んでいたのかということだろう。ダーウィンの天才ぶりも仇になった。その神のごとき評判のおかげで、跡を継いだ科学者たちは慢性的な確証バイアスを抱くことになった(中略)ダーウィン式のレンズをとおすかぎりホモセクシュアルな行為は不都合な「エラー」におしこめられ、やがて無視されてしまう(中略)生物学者ブルース・バゲミールは脊椎動物の三百種以上の同性愛的行為を収録(中略)動物の社会では同性愛的行為が協調の役割を果たす(中略)もちろん、ダーウィンが一から十まで間違っていたわけではなく、雄の競争と雌の選択はたしかに性淘汰の推進力だ。ただし進化という絵における一部にすぎないのだ(中略)古くさい男性視点の進化の物語を書き換え、雌という種の定義をあらためよう(中略)メスのラングールは交尾を子殺しの防御手段にしていた(中略)父親を曖昧にするという(※人類学者サラ・ブラファー・)ハーディの説は今や学問的な主流(中略)雌たちの過剰な性的な行動は「熱心な母親ぶり」であり、子どもたちの生存の確率を高める進化上の狡猾な手法なのだった(※ライオンでも同じ)(中略)動物の雌にとって、流産は無意識の適応戦略だ。パンダだってそれを行う(中略)望まぬ母親ライフを送るのを避けようとするときよくある話(※胎児を体内に吸収)(中略)野生ではゲラダヒヒが、新しい雄に群れを乗っ取られると流産を選択する(中略)実はダーウィンも、一部の種においては役割が逆転していることに気づいていた。雌が競争に参加し、雄が控えめに振る舞うのだ。だが彼はそれを注目に値しない例外だと考えていた。※引用者加筆.

オーガズムの回数が増えるほど、女性はストレスが減り、病気が減り、老化が抑えられる(中略)定期的にオーガズムを体験している女性は、免疫システム全体が調整され、炎症マーカーが下がる。女性はオーガズム後に、炎症を起こすストレスホルモンのコルチゾールが減る↓

精子のたんぱく質は、ものによっては卵の排出をうながし、寿命さえ延ばす効果があるとされる。テキサス州に生息するコオロギは精子にプロスタグランジンが含まれる多くの種のひとつで、それによって雌は免疫が強化される(中略)ヒトの場合、感覚神経が張りめぐらされたこの器官(※クリトリス)は体内に約十センチメートル延びていて、一対の「脚」が膣を左右から支え、雌のオルガスムの中核を担っている(中略)サルがオルガスムに達するのに必要な刺激は、野生においては何度か交尾を重ねて蓄積しないと得られない。たとえば複数の雄と連続して交わることで(中略)精子には実際のところ自力で受精の場まで移動するエネルギーも、一定の方向に泳ぐスキルもない。手助けが必要なのだ(中略)絶頂に達しているとき、分泌されたオキシトシンは子宮と卵管を収縮させ、結果として精子を「吸い上げる」。こうして卵子への距離がぐっと近くなる(中略)(※ニホンザルの)雌は序列が上の社会的な大きな雄と交尾しているとき、よりオルガスムに達することが多かった。つまり雄の精子を取り込むことを選んでいるのだろう。女性のオルガスムに関する近年の調査では、ヒトにおいても絶頂が受精を後押しするという結果が出ている(中略)大昔のヒトの女性は生殖のための戦略を使い分けていた。すなわち保険としてパートナーを選びつつ、排卵期にはこっそり群れを離れ、優秀な男性とオルガスムをともなうセックスをしていたのだ(中略)女性は卵子の父親をある程度コントロールできたのだ(中略)『雄』と『雌』のホルモンが存在するというのは、よくある誤解です。みんなおなじホルモンを備えているのですよ(中略)雄雌の差は互いに比較したときの酵素の量で、それが性ホルモンをどちらかに変換し、ホルモン受容体の分布と感度を決定するのです(中略)答えはテストステロンが合成される方法にあった。すべての性ホルモン、すなわちエストロゲン、プロゲステロン、テストステロンはまずコレステロールとして出現する。やがてそれは酵素の働きによって、一般的に妊娠とかかわりがあるとされるプロゲステロンに変化する。プロゲステロンはアンドロゲンに、アンドロゲンはエストロゲンに先行するものだ。※引用者加筆.

ミトコンドリアでは、コレステロールからプレグネノロンというホルモンがつくられる(中略)プレグネノロンは卵巣と副腎で(※副腎皮質ホルモンもつくる→)プロゲステロンに変化↓

卵巣と子宮の全摘後、プロゲステロンとアンドロゲンは、ほとんど関心を持たれることがない。多くの女性たちには、エストロゲン優勢性の症状があり、明らかにアンドロゲン不足の症状があっても、エストロゲンだけを与えられる。卵巣摘出後のアンドロゲン不足でよくある症状に、性欲減退、うつ、記憶違い、骨量の減少、膣の乾燥、失禁がある(中略)プロゲステロンが低い女性は、正常な女性に比べて、乳がん発症率が五・四倍も高かった。つまり、前者は後者に比べて、乳がんになる確率が八〇%以上高いということだ。この違いは、その女性の月経が始まった時期、更年期に入った時期、経口避妊薬の使用歴、乳房の良性の病気の有無、初産の時期などとは無関係なものだった。つまり、プロゲステロンが低いということしか、女性たちの間に明らかな違いがなかったのである。また、この研究では、あらゆる種類のがんについても追跡した。すると、プロゲステロンが低いグループは、正常なグループに比べて、がんの発生率が一〇倍だった。つまりプロゲステロンが正常なら、あらゆるがんが一〇分の九の確率で予防できる。この研究は発表されても、何の波紋も呼ばずに消えていった。プロゲステロンの不足ががんに関与するという事実を確認するために、資金を出す製薬会社がないからだ。

詐欺を働いて詐欺がバレるとコルチゾールが不足する

(※女性の場合は)コルチゾールが不足すると、プロゲステロンがコルチゾール生産に使われてしまい、エストロゲン優位になり、がん細胞をつくったり、進行を早めたりする ※引用者加筆.

医学界でも、エストロゲンだけの投与は子宮体がん、乳がんを増やす危険性があることを認めている↓

一九九〇年代の初めには、エストロゲンとプロゲステロンを混合するホルモン療法から乳がんのリスクが高まることを多くの研究が明らかにした。さらに二〇〇二年には別の重要な研究から、エストロゲンとプロゲステロンは思っていたような万能薬ではないことが立証された。ホルモン補充療法は、多くの女性の人生を改善はしたものの、心臓発作や脳卒中の危険も高めたのだ。

ミトコンドリアとATPこそ最高最強の抗ガン剤ということ(ミトコンドリアがプロゲステロンを作る)↓

知恵ある人とは体制など無用の長物だと証明する者のことだ。体制は人間のエゴの集まりにすぎない(中略)利口であるよりも、人に親切でやさしいことのほうが必要なのだ

「人体に並外れた負担を与えると、DNAのさまざまな休眠遺伝子が発現して、特別な生理的プロセスが活性化される」

わたしたちは取引相手ではなく同盟を組むかもしれない相手を評価している(中略)わたしたちはみな、ひと握りのがらくたではなく、スーパーマーケット全体をリュックサックに入れている人間と同盟を組みたいのである



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