しゃべるピアノ
『れ』
レモン型の黄色い月が窓からのぞいていた。
とても良い夜だった。
彼は手に持ったグラスをサイドテーブルに置いて、鍵盤に指を伸ばして一音弾いてみた。
♪~
僕の身体から放たれた音は、冷たい大理石の床に転がるように響いていった。
今日はなんて良い夜だ。
彼は上機嫌で僕とセッションを始めた。
こんなに音を出したのはいつぶりだろう。
ああ、素敵だ。
ああ、なんて素敵なんだ。
ねぇ、聴いてますか、そこのあなた。
床にべったりと寝そべっているあなたのために彼が奏でている、この「鎮魂歌(レクイエム)」を。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?