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金持ちジュリエット

「金持ちジュリエット」
放課後の教室の黒板に大きく落書きされているそれを見て、樹里はまたかとため息をついた。そのままにもしておけないので、黒板けしを持って端からゆっくり消していく。

『金持 樹里』と書いて『かなもち じゅり』と読む。

樹里という名前の由来がかの古典劇の主人公「ジュリエット」であることを考えると黒板に書かれている後半だけは正しい。ただし、苗字に反して樹里の家はお金が余っているような経済状況ではなかった。

「わたしも、苗字通りに金持ちだったら良かったのにね」

樹里は黒板を消しながらひとりごちた。
ひとりごとの途中、教室のドアががらりと開いた。

振り向くとクラスメイトの神くんが立っていた。


「あ、神くん」


樹里が呼ぶともなしに声をかけると、神くんはぺこっと頭を下げた。その後神くんは自分の机から忘れ物を探し出すと、またそっと教室から出て行った。



あーあ、本当に世の中は不公平だな。

神くんは苗字通りに「神様」なのにさ。
ちぇ。

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